New life
おなまえ
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「オラ、さっさと上がれ」
「ひぃ…!お、お邪魔します……!」
あの後混乱した感情を何とか落ち着かせるので精一杯で、気付けば左馬刻様のお家に着いてしまっていた。
エンジンを止めると共に、相変わらずの低音ボイスで「降りろ」と無愛想に言い放つ左馬刻様。そんな彼に私は肩を分かりやすくビクつかせると、慌ててドアを開けて車を降りた。
降りた先に見えたものは、見るからに高級感漂う大きなマンション。すごい…!こんな所始めて間近で見た!なんて感心する間も無く左馬刻様は入り口に向けてさっさと歩いて行ってしまう。ハッと我に返った私は、駆け足でそんな彼の背中を追いかけた。
エレベーターでかなり上の階まで上がり、長い長い廊下を歩く。深夜だからか誰ともすれ違わないし、辺りには怖いほどの静寂が広がっている。私は周りをキョロキョロと数回見回した後、前を歩く左馬刻様をちらりと盗み見て見る。白い綺麗な髪から覗く耳には沢山のピアス。長めの襟足に髪と同じくらい白くて触り心地の良さそうなすべすべの肌。頭には可愛らしい双葉のようなアホ毛。紛れも無い、やっぱりこの人は本物の碧棺左馬刻だ。T●itterでよく見るコスプレイヤーさんでさえ、ここまでクオリティの高いものは作れないだろう。
少し頭が冷静になった事で今更ながら本当にヒプノシスマイクの世界に来てしまったんだと理解する。そして、本物の碧棺左馬刻と接触しているということも。
何だかやっぱり夢みたい。でも夢じゃないんだな、何でこんな平凡な私がヒプノシスマイクの世界にトリップ出来たのだろう。いや、これはトリップなのか?まだ確信では無いし…。うーん。
でも、碧棺左馬刻がここに存在してるって事は同じチームの銃兎も理鶯も、バスブロもポッセも麻天狼も存在してるって事だよね。…って事は、私の推しのひふみんもいるって事で……!!?
ぐるぐると思考回路を張り巡らせながらまたもや一人の世界に浸っていると、いつの間にか左馬刻様の部屋に着いていたようで冒頭に戻る。
ドアを開けた左馬刻様が視線で入れと訴えかけるので、私は素直に頭を下げながら中へと足を踏み入れる。ふわり、玄関で感じたのは煙草の匂いとさっきから左馬刻様の側で微かに香る香水のような匂い。よく分からないけれど、クラスのパリピがつけてるような甘ったるいきつい香水とは全然違う。大人っぽい落ち着いた…うーん、何と言い換えていいか分からないけれど取り敢えずいい匂いだ。
やばい、私、左馬刻様の家上がってるよ!?大丈夫!?ハマ女のみんな!?左馬刻様推しのみんな!?やばいよ!!!興奮収まんないよ。もし現世帰れたらレポ(?)書くかんな、待ってろよハマ女のフォロワーさん!!!全国のヒプマイファンのフォロワーさん!!!
あの左馬刻様のお家に上がらせてもらっている興奮でつい息が荒くなる。我ながら気持ち悪いが仕方ない。
ここで左馬刻様は一郎とラブラブセッをしてるんだきっと……!!TDDが解散しても定期的に会ってたりとかしたらマジで萌える…いや燃える!!!てか左馬刻様は受け固定!!私は一左馬しか認めねぇぞコラ!!!!
妄想を滾らせながらもしかしたら一郎関連の私物があるかもと血眼で周りを見回していると、背後から左馬刻様に頭を軽く小突かれた。
「おい、お前体冷えてんだろ。取り敢えず風呂入ってこい」
「へ!?いやいや、お風呂まで借りさせて貰うわけには…」
「餓鬼が遠慮なんかしてんじゃねぇよ。良いから入ってこい」
「ひぃ、……そ、それではお言葉に甘えて…」
後ろを振り向けば、恐らくバスルームであろう一室を指差しながら左馬刻様が淡々と言葉を吐く。あまりにも畏れ多い提案に私は顔の前で手を振り断ろうとするが、鋭い眼光とドスの効いた声によってそれは呆気なく砕かれてしまった。いや、あの声と目を直に食らって見てよ…。何も言い返せなくなるから。
そんな彼に私は青ざめた顔で首を何度も縦に振ると、渡されたタオルを持って恐る恐るバスルームのドアを開けた。
*
「……あ、あの、お風呂ありがとうございました」
「おう、体はもう冷えてねぇか」
「お、お陰様でポカポカです!」
あの後自分の家より幾分か広いお風呂を使わせてもらい、有難い事に湯船まで浸からせてもらって私の体はすっかり温まっていた。真っ赤に上気した頬でリビングのソファに体を預けている左馬刻様に声を掛けると、携帯から目を離した彼がゆっくりとこちらを向く。
見た目からして十分に体があったまっているのが分かったのだろう。少しだけ頬を弛緩した左馬刻様がソファに座り直した。
えと、ここからどうしたらいいのかな…。無難に床?いや、床に座るのも畏れ多いよな…立っとくか。
そう思いながら暫くその場に立ち尽くしていると、左馬刻様は不審そうな目つきで私を見つめた。
「おい、何で立ったままなんだよ。座れよ」
「えっ!?…あ、座っていいか分からなくて…その」
「良いに決まってんだろーが」
しどろもどろになりながら視線を彷徨わせる私に、左馬刻様の呆れたような溜息が飛んでくる。すると次の瞬間、彼はまるで隣に座れと言わんばかりに視線を横へとずらした。
え、え、本当にいいの?そんな事が頭を過るがこれ以上突っ立っていればまた彼に怒られてしまうだろうと、私はおずおずとソファに近付き彼の隣に腰を下ろす。ゆっくりと左馬刻様の方へ目線を送ると満足げな彼の表情が見え、ああ。これは正解だったとホッと胸を撫で下ろした。