New life
おなまえ
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「っつーことで、言い訳ぐらいなら聞いてやんよ。…けど、しょーもねぇ理由だったからぶっ飛ばすかんな」
「……っ、うぅ……すみませんでした……」
呆れた様な眼差しでそう言われ、私は返す言葉もなくただ頭を下げることしか出来ない。
すると頭上からはまたもや大きなため息が降りかかり、私はびくりと体を震わせた。
「あのまま俺が来なかったらどうなってたか分かってんのか?」
「………はい」
「テメェちゃんと家に帰るっつったよなぁ?」
「はい………」
どんどんと降ってくる左馬刻様直々の説教に反抗する反面、不謹慎にもあの左馬刻様に怒られていることに嬉しさを感じてしまう。あ、ドMじゃないぞ。だって思ったより怒鳴ったりしなくてあくまで冷静な怒り方なものだから。
けれどやはり約束を破ったのは私の方だ。それはきっちり反省と謝罪をしなければならない。しかし肩を落としながら泣きそうな声で何度も謝罪を零しているうちに、段々と体が冷えていくのが分かる。鼻がムズムズしてくるのに気づき、慌てて堪えようと口元に強く線を引くが、それで生理現象が抑えられる筈もなく。
「…っくしゅ!!」
やばい、なんて思う頃には口から大きなくしゃみが出ていた。辛うじて口元は手で抑えたが、ゆっくりと左馬刻様の方を見れば驚いた様に目を見開いていて。
鼻をすすりながら「すみません」と引き攣った笑みを見せれば、不意に頬に温かな体温を感じて体の動きが止まった。
「だいぶ冷えてんな。お前いつから外出てんだよ」
「っ…!あ、あの」
私の頬を両側から挟み込む様にして、真剣な表情でこちらを見つめる左馬刻様。
あまりにも端正なその顔立ちが目の前にあるという事と、彼の大きな手に触れられているという事を自覚すると共に体の体温が上昇していくのが分かる。
きっと今の私の顔はリンゴの様に真っ赤だろう。湯気が出そうなくらいに上気した顔を見た左馬刻様は不思議そうに首を傾げたが。
ひぇぇぇぇ!!!!!あの、左馬刻様に!!!私の汚い肌を触っていただいている!!!!!やばいよ!!!!!!ファンに殺される!!!!てか首かしげんのあざと!!!!好き!!!!てか一郎ごめんなさい!!!こんな私みたいなやつが左馬刻様に触れてごめんなさい!でも不可抗力!幸せ!!もう死んでもいい!!!
内心嬉しさと畏れ多さで混乱状態に陥っている私の思考回路がまたもや暴走し始める。頬に感じる左馬刻様体温は安心するくらい温かく、彼はこんな私を助けるくらいなのだから実は優しい人間なのではと考えてしまう。そして目の前の左馬刻様を拝む様に手を合わせて、今度はお礼と感謝の言葉を並べた。
「ああ、ありがとうございます…とても温かいです……」
「…取り敢えずこのままじゃ風邪引くだろーが。俺が送ってやっから家帰れ」
「…………、えと……」
顔を顰めながら携帯で時間を確認した左馬刻様が親指で車を指差す。
見るからに高級車っぽい黒い車に少したじろぐと共に、ついに事実を言わなければならない時が迫っている事に気付いた。張り詰めた糸がどんどんと緊張していくのが分かる。一歩間違えれば切れてしまいそう。
ギュ、と服の裾を握りしめて黙り込んだ私を左馬刻様は疑問を浮かべた表情で見つめた。
「おい、聞いてんのか?…理由はしんねぇけどよ、あんま家族心配させんじゃねぇぞ」
「………ない、」
「あ"?」
未だ何も言わない私に痺れを切らしたのか、左馬刻様の厳しい声が頭上に降りかかる。ごもっともな言葉とそんな存在が今はいないだというどうしようもない不安に、私の張り詰めていた糸がぷつりと切れるのが分かった。
震える声で小さく言葉を漏らせば、ちゃんと聞き取れなかったのか左馬刻様が聞き返してくる。じわりと熱くなる目頭とピクピクと痙攣する頬。もう笑っていられない、強がっていられない。
「私には、……帰る場所もない、行くところもない、…迎えてくれる家族だって、いない………!」
視界が涙でぼやけて左馬刻様の表情が分からない。情け無く震える私の声は、やけに耳に大きく響いてまるでこんな状況の私を嘲笑っている様だった。拳を強く握りながら何とか涙を溢さまいと必死に唇を噛みしめていれば、不意に腕を強く掴まれる。
「…分かった。取り敢えずお前、俺の家来い」
「…………え?」
あまりの予想外の彼の言葉に目を何回か瞬かせると、今まで目元に収まっていた涙がポロリと頬を伝う。しかし左馬刻様は私の返事を聞く間もなく、私の腕を強引に引っ張り車の助手席に座らすと、エンジンをかけ早々に車を発進させた。
……え、え?嘘でしょ?
わたしが、左馬刻様の家に?
えええええええ!!!!!!???
私が状況を理解し一人で混乱に陥る頃には、車は左馬刻様の家へ一直線に向かっていた。