New life
おなまえ
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「…あ?んだよテメェ」
「今良いとこなんだから邪魔すんなよ」
低く威圧を含む声を漏らし目の前に立ちはだかるその存在に向かって、私の肩を抱く男は耳元で軽く舌打ちする。それと同時に、身を守るように両腕を抱え込み俯いていた私も自ずと視線を声がした方へ向けた。
暗闇の中でもはっきりと分かる白い髪、そしてギラリと光る赤い瞳からは威迫の色が見え隠れしていて、思わずぞくりと背筋が震え冷たい汗が背中を流れていくのが分かる。
な、なんで。貴方が、
「……離せっつってんだろうが、何回も言わせんじゃねぇよ」
しかし男達はまだその存在の正体に気づいていないようで、私の肩から手を退けようともしない。それを見た彼は、先程より更に気迫を含んだ低い声で再度言葉を投げかける。あまりにもゾッとするその雰囲気と声色に流石に恐怖を感じたのか、男がびくりと肩を揺らし息を飲むのが分かった。それと同時に肩を抱く力も少しだけ緩まる。
今なら、逃げれるかもしれない。
「な、何だよお前……」
「おい、怯むな!折角女を掴まれられたっつーのに簡単に逃がしてたまるか」
「あっちは一人だ!負けるわけねぇだろ」
口々にそう捲し立てて完全に意識が向こうに向いているのが分かる。その隙をついて、私は息を大きく吸うと勢い良く地面を蹴った。
目の前の白い光に向かって一目散に、精一杯の力で駆け出す。男の腕の力はかなり弱まっていた様で、私が少し動いただけで軽々と振り払う事が出来た。背後から「おいテメェ!」と男の焦りを含んだ怒号が飛んできて、思わず恐怖に足が震えもつれそうになるのを必死に堪える。けれどしっかりと視線だけは目の前だけを見据えて、無我夢中で息を切らしながら男達の輪を走り抜けた。
「畜生、このクソガキ…!あんま舐めてんじゃねぇぞ!」
「テメェから此処にやって来た癖に、いざ絡まれるとビビるとかマジあり得ねぇ」
仕方ないじゃないか!知らないんだよ、何一つ此処の事なんて…!!
一心不乱に走っている背後からそんな罵言が聞こえてくるが、私は強く目を瞑り聞こえないフリをする。何度か私を捕まえようと手が伸びて来たが何とか振り切り、ゆっくりと閉じていた瞳を浮上させれば彼の象徴的な存在である白いアロハシャツが視界に映り込んだ。
急に全力疾走した事ですっかり上がりきった息を整える為に何度か大きな深呼吸を繰り返しながら、ゆっくり、ゆっくりと視線を上へとずらす。すると呆れた様な、怒った様な、よく分からない表情で私を見下ろす左馬刻様の赤い瞳と目が合った。
「……テメェなぁ、」
「ひ、ひぇ…、ごめんなさい、」
その瞬間、私は数十分前に彼とした約束を思い出す。大きくため息を漏らしながら口を開いた左馬刻様の言葉を遮る様に、私は慌てて謝罪の弁を並べる。
すると彼はまたもや小さく息を吐くと、私から視線を外した。
「まぁ、取り敢えず説教は後だ。先ずはコイツらを片付けんのが先決だろ」
「……え!…あの、こ、殺さないでくださいね……!?」
「あ"?まだんな事言ってんのかテメェは。……つってもこんな深夜に死人出すのは確かに面倒だな」
今すぐマイクを取り出して人一人を殺してしまいそうな雰囲気に、私は慌てて上擦る声で制止をかける。
途端に不機嫌そうに眉を顰めてこちらを見やる左馬刻様にまたもや怯んでいれば、ふと彼は何か案を思いついたのだろうかゆっくりと目を細めて再度視線を男の方へと向けた。
そしてポケットからマイクを取り出しながら、ゆっくりと男の方へと近づいていく。
すると男達はその存在の正体を理解したのか先程の威勢は何処へやら、全員顔は青ざめガタガタと体を震わせていた。
「お、おい、やべぇぞ、なんでこんなとこに碧棺左馬刻が______」
「もしかして、あの女、左馬刻のイロなんじゃ…、…ひぃ!こ、殺される…!」
あまりの威圧感とオーラに圧倒されたのか、情けない声を漏らしながら尻餅をつく男達。
中には若干涙目になって震えている人もいて、何だか同情したくなる。きっと同じ状況なら私もああなってると思う。
そんな事を思いながら彼が本当に殺してしまわないか内心ハラハラしていると、怯えている男達の目の前に仁王立ちになった左馬刻様がゆっくりと口を開いた。
「…テメェらには、特別に選択権与えてやんよ。今すぐ此処を立ち去るか、それとも俺様のヒプノシスマイクでぶっ殺されるか、五秒以内に選べ」
そう言ってニヒルな笑みを浮かべる左馬刻様は、本物の悪魔の様に見えた。いや、悪魔というより死神?そんな事はどうでもいい。
胸元で手を重ね合わせながら行方を見守っていれば、すぐさま男達は何とも情けない悲鳴を上げながら屁っ放り腰でその場を立ち去っていく。そして左馬刻様の言いつけ通り、五秒過ぎる頃にはその場には私と左馬刻様しか残されていなかった。
すると途端に辺りには静寂が訪れ、遠くで鳥の鳴き声が小さく聞こえる。
するとずっと背中を見せていた左馬刻様はマイクをしまい、ゆっくりとこちらを振り向くと不満げな表情を見せながら足早に私の元へ近づいてきた。