Encounter
おなまえ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…とは言ってもなぁ」
そうポツリと零した言葉は、すっかり真っ暗な闇が広がる空へ吸い込まれていった。
あの後。おじさんの言いつけ通り中央区に行こうともしたのだが、何だか気が乗らなくて足が進まなかった。だって、中央区と言えばあの勘解由小路無花果様が居る所だし、少し怖くて。それに、女性が持て囃されて女性が一番偉いなんて立場の場所に自ら行きたいと思えなかった。それなら、ここで餓死でも凍死でもした方がマシだ。
我ながら馬鹿だとは思う。中央区に行けば助かる道もあるかもしれないというのに。けど、女尊男卑の世界に飛び込んで仕舞えばきっと自分の感覚も麻痺してしまう。私はそれが、ただただ怖かった。女性も、男性も、どちらかが偉いなんて事は絶対無い。人間は性別関係なしに、皆平等なのだから。
…なんてそんな綺麗事が通じる世界でも無いだろうに。けど、私は、私だけはこの世界で唯一でも良いから男女間の平等を願いたかった。
それは、ヒプノシスマイクにハマってからずっと思っていた事だったから。
中央区なんかに行ったしまえば、そんな考えも直ぐに打ち砕かれてしまいそうで。向こうの思想に洗脳されてしまいそうで。それがとてつもなく怖かった。
私は人気のない小さな公園のベンチに腰掛け、ぼんやりと空を眺める。
街の明かりのせいで、星は全然見えない。嗚呼、そう言えば私の住んでいた場所は田舎で街灯も少ないから星がよく見えたなぁ。
そんで毎日、お姉ちゃんとか和子と一番星を見つけては笑い合ってた。
懐かしい記憶が脳内に浮かび上がり、少しだけ心が物寂しさに襲われてしまう。
私はそれを取り払うかのように空から視線を外し、おじさんからもらったジャケットの裾を強く握りしめた。
ひゅう、と秋の風が頬を撫でその冷たさに思わず身震いする。やばいなぁ、この寒さで一晩乗り切れるだろうか。まさかこのまま凍死しちゃうのかもしれない。せっかくヒプマイの世界に来れたのにな。まぁ、決して幸せで楽しい世界では無いけど。そういえば和子は大丈夫だろうか。さっきから連絡ないけど、同じヒプマイの世界に来てるのだろうか。もし私が死ねば、ここに取り残しちゃうのかな。
「……帰りたい、」
帰りたいよ、
優しい姉と元気な和子の笑顔が頭に過ぎり、自然と私はそんな事を考えていた。
ヒプマイの世界に行きたい、なんて和子とよく話していたけれど、実際来てみても良い事なんてない。都合よくキャラと仲良く〜とか出来るはず無かったんだ。私が来て良い世界じゃなかったんだ。…何回でも謝るから、頭下げるから、どうか元の世界に帰らせてください。……ねぇ、神様。
二次元は二次元だから良いのだと、小説でよく見るトリップモノみたいに現実はそう上手く行かないのだと、私は体験してみてから気づいた。ああ、ヒプマイの世界に行きたいと叫んでいた数日前の自分を怒ってやりたい気分。まぁ、でもいいか。どうせこのままキャラクターとはそんなに関わることもなく私は死ぬんだろうし。
そんな事を考えていれば、だんだんと瞼が重くなってくる。あ、寝ちゃダメだ。ダメなのに…。頭が上下に揺れ、瞼上の皮膚がピクピクと痙攣を起こす。ダメだ、なんて思っていても眠気になかなか勝てないものだ。
気づけば私はベンチに倒れこむようにして、眠りについていた。
ああ、今夜は野宿決定だ。明日まで生きていられる保証はないけれど。