Encounter
おなまえ
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「丁度いい。…よく見とけ、あれがヨコハマに君臨する"化け物"だ」
「っ………」
視界にちらついた何かをしっかり見ようと目を凝らせば、その圧倒的な雰囲気を纏う中心に見覚えのある白髪の男性が赤い瞳だけをぎらりと光らせていた。
……知ってる、この髪を、瞳を、私はよく知ってる。
大きな骸骨がトレードマークのマイクを片手にゆっくりと路地裏の奥から姿を現わすその人からは、画面越しで見る彼よりも何百倍も迫力がある。
思わず息を飲みながらその光景から目を離さずにいると、遂にその殺気を纏った彼が白日の下に晒された。
白い髪に青のグラデーションを重ねた真っ赤な瞳。それに加えて、見慣れた白のアロハシャツ。間違いない、この人は___________……
何度も何度も会いたいと願った人物に会えた事に嬉しさを感じる反面、状況が状況なので素直に喜べない自分も確かに存在した。
ドラマCDや曲からして決して優しい人ではない事くらい重々理解していたはずなのに、いざ対面してみるとあまりの雰囲気に圧倒されて足を動かす事さえままならない。
けれど視線だけはしっかりと彼に向いており、そんな私を当然だと言わんばかりの男性のため息交じりの声が鼓膜を震わせた。
「……どうだ、怖いだろう?彼奴はここ____ヨコハマを仕切ってるヤクザ、碧棺左馬刻だ。それに加えてヒプノシスマイクの保持者で、月一度行われるテリトリーバトルのヨコハマ代表のリーダーでもある」
「………………Mr.Hc」
「…!オマエさん……知ってるのか?」
知ってる、知ってる………何度も見たよ、何度も聞いたよ、貴方の名前も、歌も、声も。全て。
自然と口にしていた彼のMCネームに、隣で男性が驚いた様な声を漏らす。けれど私の視線はすっかり彼に釘付けになっていた。
「……あ?死んだのかよ。威勢良く俺様に勝負挑んできた割には大した事ねぇな」
低い声でそう言い放った左馬刻様は片手で煙草をふかしながら、血だらけで倒れている男性の頭を軽く蹴る。
その瞳に宿る消えていない殺気と蔑んだ様なその色は、関係のない私まで震え上がってしまうほどで。
ようやくこの場所に、この世界に私が確かに存在していると自覚した。
夢、夢じゃない、これは、紛れもない現実で。
左馬刻様に会えていて、けど、怖くて___________……
正直、ヒプノシスマイクの世界観はよく分かっていなかった。
男性が虐げられる世界になり生活できる区間さえ区切られ、武力による争いも全て根絶された。
その代わりに男性の争いの為の武器は、人の交感神経・副交感神経に作用する「ヒプノシスマイク」と言うものに変わった。
それを使って戦いに勝利する事で領土が獲得出来て___________…嗚呼、あまりにも平和に考えすぎていた。
武力による争いは根絶された為、人が死ぬ様な世界では無くなったのだと勝手に思い込んでいた。
けど、違う。確かに存在したこのヒプノシスマイクの世界では、人が死ぬのが当たり前なのだ。
争いで負ければ、きっと待ってるのは___________………
考えたくもない想像が頭に浮かんで、私は思わず瞳を固く閉じる。
…こんなの、二次創作で見るだけで充分だ。
「花子サン、もう早く行きな。碧棺左馬刻に関わるとロクな事がねぇ」
「っ……でも、」
相変わらず座り込んだままの男性がジロリとこちらを睨みつけるが、私は少し渋った様な声を喉から漏らした。
だって、倒れている人が、本当に死んじゃう。もしかしたらまだ息があるかもしれないのに。
こんな事を言えばまた怒られちゃうんだけれど、本音を言えば倒れている人を助けてあげたい。人が死ぬなんてとこ見たくない。…特に左馬刻様が人を殺すところなんて見たくない。
「ぅ……ぁう、………ぁ」
「はっ、まだ息あんじゃねーか。…俺様が直々にトドメ刺してやんよ」
「っ………!!!」
その時、先程までピクリとも動かなかった男性が微かに肩を揺らし呻き声を漏らす。
あまりにも痛々しい声と、動かす事もままならない体が少しだけ震えていた気がした。
それに気付いた左馬刻さんは煙草を路上に投げ捨て足で踏み潰すと、唇に薄く弧を描きながらマイクを持ち直す。
ぶぉぉん、と起動音が聞こえて周りの誰もが次の行動に目を瞑った。
……けど、
「おいっ、花子さんやめろっ……!!」
後ろで聞こえた男性の焦りを含んだ声を無視して、気付けば左馬刻様に向かって駆け出していた。