※痛い表現があります※




背後の方から響いたカエルの潰れた様な声に、思わずその声が聞こえた近くの路地裏の入り口付近へ目を向ける。
「馬鹿者っ、見るな！！！」隣で男性の切羽詰まった声が聞こえたが、その瞬間飛び込んで来た光景は信じ難い様なものだった。







「誰かっ……ぐふぅっ！！！！」




地面を這いつくばりながら必死に何かから逃げようと助けを求める一人男性。
その体は血だらけで、服もボロボロで。
所々皮膚が裂けており、そこから流れる血の量は尋常ではなかった。目玉が飛び出しそうなくらいに瞳孔を開きながら辺りを見回す男性。

…一瞬、目が合った気がした。

_______その瞬間、トドメを刺されたかの様に私の目の前に真っ赤な鮮血が飛び散る。
口から溢れた血の量は驚くほど多く、まるで映画のワンシーンでも見ている感覚に暫くその場を動けなかった。




血、血…、
「あの日」目の前に広がった光景のように。


全身に真っ赤な花を咲かせる男性はピクリとも動かなくなっていた。











「ぃ、………や……な、なに、これ………」



「…花子さん、目塞いどきな。くそ、遅かったか…」



「あの日」の事も相まって混乱状態に陥ってしまう。思わず立ち上がって体を震わせる私に、男性が冷静な声で落ち着かせようとしてくるがそんな事出来る筈もなく、暫く呆然とその場に立ち尽くしてしまう。夢だと思いたいのは山々だが、鼻につく鉄の香りがやけにリアルで吐き気に襲われた私は慌てて口元を手で覆った。


…なにこれ、なにこれ、なにこれ………！！




今まで私が生きてきた場所では決して起こらなかった現象に、私の思考回路はショート寸前だ。
それでも必死で理性を保とうと、大きく深呼吸をして恐怖に支配されそうな心を取り戻そうと試みる。
取り敢えず今倒れた男性の命が危ない事を考えた私は震える手でポケットから携帯を取り出した。




「と、取り敢えず、き、きゅ、救急車………っ！」


「…………無駄だ、もうソイツは手遅れだ。助からねぇ。…"アイツ"を怒らせた時点でな。100歩譲って助かったとしても、精神崩壊の所為でもう普段の生活には戻ってこれねぇよ」


「………っ、へ、……！？」



指が震えてなかなか上手く文字を打てず手こずっている所に、男性の低く掠れた声が厳しい言葉と共に飛んでくる。
思わず体の動きを停止させ、男性の方にゆっくりと視線を向けると彼は倒れている男性を冷めた瞳で見つめていた。




「……ここは、そういう世界だ。全員、命かけてマイク握ってんだ、半端な覚悟のやつには死しか待ってねェ。分かったなら、もう此処から出てけ」


「っ、でも……、こんなままって、あんまりじゃ…！」


「ほっときゃそのうちサツが来る。ソイツらに任せりゃいい」


「っ………！！！！そんなっ…！！なんで、」



男性のあまりの薄情な言葉に堪らなくなった私は何かを言い返そうと、大きな声を出しながら口火を切る。
けど、何を言う？この街のことを何も知らない私に、何が言えるというのか。何を偉そうな事を言えるのか。
ヒプノシスマイクの世界の事なんて、何一つ知らないのに。
どんな世界かなんて事さえ、ちゃんと分かっていないというのに。



分からない、分からないけど、

…だけど、だけど、こんなの、ってあんまりじゃ………！！！



自分の気持ちを上手く言葉に乗せられない悔しさに、私は唇を強く噛み締めながら拳を握りしめる。
その瞬間________近くに異様な威圧感…？いや、違う。これは殺気だ。



何とも言いようの無い雰囲気を感じ、私の背中にぞくりと冷たい物が走る。
思わず視線をその雰囲気を纏っている場所へ向けると、近くの男性が小さく舌打ちをした気がした。




「…、何で今日に限ってこんなに運が悪りぃんだ…」


「……え？」



ぽつり、男性の心底皮肉った様な声は周りの騒めきによって掻き消された。













































「おい、逃げてんじゃねェよ。身の程知らずの雑魚が」





低くドスの聞いた声と共に、とてつもない殺気と圧を発した"何か"が視界に現れた。