ツイステッドワンダーランド
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割のいいバイトがあるからやってみないか、と言われたのは数日前のこと。アズールから呼び出されたラギーは、渡された契約書と机の上に並べてある大量の小瓶を見て顔を顰めた。手に取って光に透かすようにして見てみれば、紫の色味が強い桃色液体が小さなガラス瓶の中でとろりと傾く。魔法薬の一種だというのは見て分かるが、どんな効果があるのかは見ただけでは分からない。
「なんスか、これ」
紫色が強いからか一見毒薬にも見えるのだが、そんな物騒な物を進んで作る者はポムフィオーレ寮に属する生徒のみであろう。だが、契約内容によっては禁薬とされている物以外作ってしまうのがアズールという男だ。疑い深いラギーが薬の効果を確かめるべく、彼に問いかければ、目の前に座る男はにっこりと笑みを浮かべて「媚薬です」と、淡々とした物言いで答えた。
「ある生徒から頼まれましてね。ただ、依頼人へ失敗作を渡すわけにはいきません」
「つまり?」
「ラギーさんに試飲してもらいたいんですよ」
作ったような笑顔を浮かべて言ってのけるアズールに、ラギーの口はぽかんと大きく開く。机の上に並んだ小瓶の数々を見て、恐らくはこれを試してその効果などを報告するといった内容なのだろう、と思ってはいたのだが改めて言われると、なかなか言葉が出てきてくれない。
一本だけなのかと思えば、そうではないらしい。どんどんと紙袋の中に小瓶を詰め込んでいくアズールを見て「まさかそれ全部?」と小さな声で呟けば「全部です」と打てば響くように返事が返ってくる。何本目で、どんな効果が出るのか。事細かなご報告をお願いしますね。と、紙袋を押し付けられるようにして渡される。どうやらこちらに拒否権は無いらしい。
困るッスよー、と紙袋を返そうとすれば、アズールはあろうことかモストロ・ラウンジで週三日、一ヶ月労働した時よりも高い賃金を提示してきて、ラギーは反射的に「やります」と紙袋をそれはそれは大事そうに抱えてしまい、一拍置いてからやってしまったと後悔の念が押し寄せてきた。
ここは一体どこだろうか。
校舎の上層階にある端っこの廊下で、悠月は一人佇んでいた。いくら歩いても同じ景色が広がるばかりで、自分がどこを歩いているのかも分からなくなってくる。グリムが悪戯で壊してしまった外灯の電球の替えを倉庫から持ってこいと言われ、簡単な地図をクルーウェルから渡されたのだが、悠月は無駄に広い校舎の中で迷子になってしまったのだ。
放課後ということもあり、校舎に残っているのは自習をしている者や屋内で活動している部活動に所属している生徒たちのみだ。普段はめったに使われないというだけあって、ここまで来るのにすれ違った人は誰一人としていない。どうしよう……と項垂れるも、倉庫となっている部屋を探せなければ意味がない。いっそ来た道を戻ろうかと思った、まさにその時だった。
ガタッ、という物音に体が飛び上がる。音が聞こえてきたのは誰もいないはずの空き教室からで、悠月の頭の中にはエースやデ悠月スをはじめとしたクラスメイトや先輩方から聞いた怪談話が駆け抜けていく。嘘だろ……と顔が青ざめていく中、教室のドアに手を伸ばす。深呼吸を一つ、二つと悠月っくりしてから、意を決して扉を開いた。
埃を被った教室は何十年も使われていないようにも見えたが、建付けの悪そうなドアは意外にも簡単に開いてしまい、力を込めた分大きな音が鳴ってしまう。その音に開けた自身が驚いてしまったのだが、驚愕に目を見開いたのは悠月だけではなかった。
「え……ラギー先輩?」
薄暗い部屋の中。壁に背中を預けるようにして座り込んでいた一人の男が、こちらを向いて目を丸くしている。元々大きな瞳は今にも零れ落ちてしまいそうだった。少し苦しそうに浅い呼吸を繰り返しているラギーを見た悠月は、慌てた様子で彼の近くへと駆け寄ろうとする。しかし、それを止めたのはラギーだった。「来るな!」と大きな声を上げた後、小さな声でごめんと呟き、苦しそうに頼むから来ないで、と訴える。
「先輩、具合悪いんですか……?」
ラギーの言いつけ通り、距離を置いてしゃがみ込む。自身の膝を抱え込んで苦し気に喘ぐ姿を見てしまった以上、放っておくことはできない。床に散らばったガラス瓶の数は裕に二十を越していて、それが何らかの効果をもたらす魔法薬だということは知識の乏しい悠月にも分かった。せんぱい、と小さく呼び掛けても、彼は手負いの獣のように鼻息を荒くして威嚇をしてくる。手をそっと伸ばしてみれば、獰猛な光が宿った瞳で睨まれてしまい身動きが取れなくなってしまった。
「本当に、大丈夫ッスから……」
苦しそうに顔を歪めながらも、口元に笑みを浮かべて優しく諭す。彼が自分の為を思って突飛ばそうとしているのに悠月は気が付いていたが、その理由がいまだ分からない。ただの体調不良であれば肩を貸して保健室に行くなり、誰かしらの助けを呼びに行けばいい。なぜ彼は頑なに差し伸べた手を拒むのだろうか……。と、改めてラギーへ視線を向ける。
部屋の薄暗さに目が慣れ、最初に見た時よりもラギーの姿がよく見える。熱を孕んでどろりと蕩けた大きな瞳や、薄く開かれた唇から漏れ出している吐息に、心臓がどくんと跳ね上がり全身の血が沸騰したかのように体が熱くなる。部屋に入った瞬間に鼻腔を掠めた異臭は、湿った空間に根付いてしまったカビや埃が原因ではなかったらしい。中途半端に脱衣していたスラックスのと、大きめのブレザーとの間には微かに肌の色が見えていて、思わず息を呑んだ。
悠月の視線が自分に向いていることに気が付いたのか、ラギーは苦笑しながらも「ね、体調が悪いとかじゃないんスよ」と言う。その声は羞恥に震えていて、彼女は咄嗟に「ごめんなさい」と小さく呟いて目を逸らした。けれども目蓋の裏にはラギーの欲情した表情が焼き付いていて、忘れようとしても残像は消えない。それどころか、彼が性欲に溺れる姿をもっと見てみたいと思ってしまった。
「あ、の……」
――私に、できることありますか
そう、小さく口を開いた悠月に、ラギーは驚愕の表情を浮かべた。
「な、に……言ってんスか」
出てきたのは低い掠れ声で、僅かに怒気を含んでいるように聞こえる。柔らかかった微笑みも引き攣っていて、灰色がかった薄青色の瞳が大きく揺れている。床に散らばった瓶に入っていた薬の正体や、それを服用した経緯について説明した後、ラギーはいつもよりも低い声で「悪いけど、手加減とかできないッスよ」と意地の悪い笑みを浮かべた。
ぎ悠月っと目を瞑り、こくんと小さく頷いた後、そっと頬に触れた熱に体がびくりと震えた。恐る恐る目を開き、顔を上げてみれば熱を帯びて潤んだ瞳と視線がかち合う。ラギーが身を乗り出したのを合図に、悠月はもう一度目を閉じた。
むにっと柔らかな唇を押し当てられたかと思えば、熱い湿った吐息が唇を撫でる。その慣れない感触に睫毛を震わせれば、今度は唇を啄むような可愛らしい口づけに変わった。下唇と上唇と、余すところなく啄まれ、自身も真似るようにして啄み返す。ち悠月っ、と可愛らしいリップ音を立てながら唇を吸えば、彼の口元に微かだが笑みが浮かんだ。
嬉しそうにごろごろと喉を鳴らしているのが微かに聞こえて、胸の中にき悠月っと甘苦しい痛みが走る。頬に伸ばされていた手に耳や項を擽られて、そのこそば悠月さに身を震わせるとラギーは喉奥でくつくつと愉しそうに笑った。
「こっち来て」
耳元で囁かれ、導かれるように腕を引かれる。大きく開いた彼の脚の間に体を埋めれば、ぐんと近づいた距離に心臓が早鐘を打った。先ほどの唇を重ね合わせたり、優しく啄んだりするような口づけとは違って、今度は噛み付かれるようにして唇を奪われる。口開いて、と言わんばかりに唇を舌で舐められ、閉ざしていた口をそっと開けた。
僅かな隙間から潜り込むようにして、すぐにラギーの舌が彼女の咥内を支配する。驚いて縮こまってしまった悠月の舌を宥めるように優しく舌で愛撫し絡め取る。たったそれだけ、と思うような行動にも初心な彼女は過剰な反応をみせた。歯列をなぞり、頬の裏を舐り、上顎を舌先で擽って、ラギーが言った通りに差し出した舌を甘く噛んで吸い上げる。口角からは溢れた唾液が顎先にかけて伝い落ちている。それをべろん、とわざと大袈裟に舐めとれば、悠月は顔を真っ赤に染めながらわなわなと唇を震わせた。
「かわいいッスね……食べちゃいたい」
じっくりことこと。砂糖をふんだんに使って煮詰めた果実のジャムのような、甘いあまい声に、蕩けていく。
そんな顔しないで、と頬を甘噛みされ、また貪るような口づけを繰り返される。角度を変えながらもっと、もっと深くまで交わろうとする口吸いは、悠月の呼吸さえも奪った。
息苦しいと胸を軽く叩いて訴えれば、ラギーは小さな笑い声をこぼしながら、顎先や喉元に唇を落としていった。器用に片手で制服をくつろげていく様を、どこか他人事のように見下ろす。
「右手、使わないんですか」
頬や耳に触れた手も、腕を掴んできた手も、後頭部に添えられた手も、制服にかけられた手も、全部左手だった。特にワイシャツのボタンを外す細かい作業なんて、利き手でやった方がやりやすいだろうに。彼は右手を床に落としたままぴくりとも動かさない。欲を言えば両の手で抱き締めてほしいのだが、その言葉は口にはせずに飲み込んだ。
「あぁ……ほら、汚れてるんスよ」
君が来るまで弄ってたから、と右手を上げてみせる。「そんなの気にしないのに」と小さく口にすれば「オレが嫌なんスよ」と左指で額をぐりぐりと押された。
「でも、たしかに左手じゃボタンを外すのは苦労するッスね」
元々開けていた第一ボタンはさておき、第二と第三ボタンはラギーの手によって外されていた。ワイシャツの下に来ていたキャミソールの肌着とブラジャーが少しだけ露わになっている。豊かな……とまではいかないが、僅かに膨らんだ柔肉に唇を落としたラギーは上目遣いで「自分で脱いでみる?」と小首を傾げて悪戯に笑う。
「なっ……⁉」
その言葉に思わず短く大きな声を上げてしまった。一瞬でも可愛いなと思ってしまったが、頼み事の難易度が高すぎる。真っ赤に熟した苺のように顔を赤く染めた悠月は、蚊の鳴くような声で「むりです……」と頭を振った。
「でもほら、オレのユニーク魔法使えば、身を任せるのと同じッスよ」
ほぉら、と唇が歪む。不敵な笑みを浮かべたのを見た刹那、脳の奥が甘く痺れたような気がした。
――愚者の行進
「なんスか、これ」
紫色が強いからか一見毒薬にも見えるのだが、そんな物騒な物を進んで作る者はポムフィオーレ寮に属する生徒のみであろう。だが、契約内容によっては禁薬とされている物以外作ってしまうのがアズールという男だ。疑い深いラギーが薬の効果を確かめるべく、彼に問いかければ、目の前に座る男はにっこりと笑みを浮かべて「媚薬です」と、淡々とした物言いで答えた。
「ある生徒から頼まれましてね。ただ、依頼人へ失敗作を渡すわけにはいきません」
「つまり?」
「ラギーさんに試飲してもらいたいんですよ」
作ったような笑顔を浮かべて言ってのけるアズールに、ラギーの口はぽかんと大きく開く。机の上に並んだ小瓶の数々を見て、恐らくはこれを試してその効果などを報告するといった内容なのだろう、と思ってはいたのだが改めて言われると、なかなか言葉が出てきてくれない。
一本だけなのかと思えば、そうではないらしい。どんどんと紙袋の中に小瓶を詰め込んでいくアズールを見て「まさかそれ全部?」と小さな声で呟けば「全部です」と打てば響くように返事が返ってくる。何本目で、どんな効果が出るのか。事細かなご報告をお願いしますね。と、紙袋を押し付けられるようにして渡される。どうやらこちらに拒否権は無いらしい。
困るッスよー、と紙袋を返そうとすれば、アズールはあろうことかモストロ・ラウンジで週三日、一ヶ月労働した時よりも高い賃金を提示してきて、ラギーは反射的に「やります」と紙袋をそれはそれは大事そうに抱えてしまい、一拍置いてからやってしまったと後悔の念が押し寄せてきた。
ここは一体どこだろうか。
校舎の上層階にある端っこの廊下で、悠月は一人佇んでいた。いくら歩いても同じ景色が広がるばかりで、自分がどこを歩いているのかも分からなくなってくる。グリムが悪戯で壊してしまった外灯の電球の替えを倉庫から持ってこいと言われ、簡単な地図をクルーウェルから渡されたのだが、悠月は無駄に広い校舎の中で迷子になってしまったのだ。
放課後ということもあり、校舎に残っているのは自習をしている者や屋内で活動している部活動に所属している生徒たちのみだ。普段はめったに使われないというだけあって、ここまで来るのにすれ違った人は誰一人としていない。どうしよう……と項垂れるも、倉庫となっている部屋を探せなければ意味がない。いっそ来た道を戻ろうかと思った、まさにその時だった。
ガタッ、という物音に体が飛び上がる。音が聞こえてきたのは誰もいないはずの空き教室からで、悠月の頭の中にはエースやデ悠月スをはじめとしたクラスメイトや先輩方から聞いた怪談話が駆け抜けていく。嘘だろ……と顔が青ざめていく中、教室のドアに手を伸ばす。深呼吸を一つ、二つと悠月っくりしてから、意を決して扉を開いた。
埃を被った教室は何十年も使われていないようにも見えたが、建付けの悪そうなドアは意外にも簡単に開いてしまい、力を込めた分大きな音が鳴ってしまう。その音に開けた自身が驚いてしまったのだが、驚愕に目を見開いたのは悠月だけではなかった。
「え……ラギー先輩?」
薄暗い部屋の中。壁に背中を預けるようにして座り込んでいた一人の男が、こちらを向いて目を丸くしている。元々大きな瞳は今にも零れ落ちてしまいそうだった。少し苦しそうに浅い呼吸を繰り返しているラギーを見た悠月は、慌てた様子で彼の近くへと駆け寄ろうとする。しかし、それを止めたのはラギーだった。「来るな!」と大きな声を上げた後、小さな声でごめんと呟き、苦しそうに頼むから来ないで、と訴える。
「先輩、具合悪いんですか……?」
ラギーの言いつけ通り、距離を置いてしゃがみ込む。自身の膝を抱え込んで苦し気に喘ぐ姿を見てしまった以上、放っておくことはできない。床に散らばったガラス瓶の数は裕に二十を越していて、それが何らかの効果をもたらす魔法薬だということは知識の乏しい悠月にも分かった。せんぱい、と小さく呼び掛けても、彼は手負いの獣のように鼻息を荒くして威嚇をしてくる。手をそっと伸ばしてみれば、獰猛な光が宿った瞳で睨まれてしまい身動きが取れなくなってしまった。
「本当に、大丈夫ッスから……」
苦しそうに顔を歪めながらも、口元に笑みを浮かべて優しく諭す。彼が自分の為を思って突飛ばそうとしているのに悠月は気が付いていたが、その理由がいまだ分からない。ただの体調不良であれば肩を貸して保健室に行くなり、誰かしらの助けを呼びに行けばいい。なぜ彼は頑なに差し伸べた手を拒むのだろうか……。と、改めてラギーへ視線を向ける。
部屋の薄暗さに目が慣れ、最初に見た時よりもラギーの姿がよく見える。熱を孕んでどろりと蕩けた大きな瞳や、薄く開かれた唇から漏れ出している吐息に、心臓がどくんと跳ね上がり全身の血が沸騰したかのように体が熱くなる。部屋に入った瞬間に鼻腔を掠めた異臭は、湿った空間に根付いてしまったカビや埃が原因ではなかったらしい。中途半端に脱衣していたスラックスのと、大きめのブレザーとの間には微かに肌の色が見えていて、思わず息を呑んだ。
悠月の視線が自分に向いていることに気が付いたのか、ラギーは苦笑しながらも「ね、体調が悪いとかじゃないんスよ」と言う。その声は羞恥に震えていて、彼女は咄嗟に「ごめんなさい」と小さく呟いて目を逸らした。けれども目蓋の裏にはラギーの欲情した表情が焼き付いていて、忘れようとしても残像は消えない。それどころか、彼が性欲に溺れる姿をもっと見てみたいと思ってしまった。
「あ、の……」
――私に、できることありますか
そう、小さく口を開いた悠月に、ラギーは驚愕の表情を浮かべた。
「な、に……言ってんスか」
出てきたのは低い掠れ声で、僅かに怒気を含んでいるように聞こえる。柔らかかった微笑みも引き攣っていて、灰色がかった薄青色の瞳が大きく揺れている。床に散らばった瓶に入っていた薬の正体や、それを服用した経緯について説明した後、ラギーはいつもよりも低い声で「悪いけど、手加減とかできないッスよ」と意地の悪い笑みを浮かべた。
ぎ悠月っと目を瞑り、こくんと小さく頷いた後、そっと頬に触れた熱に体がびくりと震えた。恐る恐る目を開き、顔を上げてみれば熱を帯びて潤んだ瞳と視線がかち合う。ラギーが身を乗り出したのを合図に、悠月はもう一度目を閉じた。
むにっと柔らかな唇を押し当てられたかと思えば、熱い湿った吐息が唇を撫でる。その慣れない感触に睫毛を震わせれば、今度は唇を啄むような可愛らしい口づけに変わった。下唇と上唇と、余すところなく啄まれ、自身も真似るようにして啄み返す。ち悠月っ、と可愛らしいリップ音を立てながら唇を吸えば、彼の口元に微かだが笑みが浮かんだ。
嬉しそうにごろごろと喉を鳴らしているのが微かに聞こえて、胸の中にき悠月っと甘苦しい痛みが走る。頬に伸ばされていた手に耳や項を擽られて、そのこそば悠月さに身を震わせるとラギーは喉奥でくつくつと愉しそうに笑った。
「こっち来て」
耳元で囁かれ、導かれるように腕を引かれる。大きく開いた彼の脚の間に体を埋めれば、ぐんと近づいた距離に心臓が早鐘を打った。先ほどの唇を重ね合わせたり、優しく啄んだりするような口づけとは違って、今度は噛み付かれるようにして唇を奪われる。口開いて、と言わんばかりに唇を舌で舐められ、閉ざしていた口をそっと開けた。
僅かな隙間から潜り込むようにして、すぐにラギーの舌が彼女の咥内を支配する。驚いて縮こまってしまった悠月の舌を宥めるように優しく舌で愛撫し絡め取る。たったそれだけ、と思うような行動にも初心な彼女は過剰な反応をみせた。歯列をなぞり、頬の裏を舐り、上顎を舌先で擽って、ラギーが言った通りに差し出した舌を甘く噛んで吸い上げる。口角からは溢れた唾液が顎先にかけて伝い落ちている。それをべろん、とわざと大袈裟に舐めとれば、悠月は顔を真っ赤に染めながらわなわなと唇を震わせた。
「かわいいッスね……食べちゃいたい」
じっくりことこと。砂糖をふんだんに使って煮詰めた果実のジャムのような、甘いあまい声に、蕩けていく。
そんな顔しないで、と頬を甘噛みされ、また貪るような口づけを繰り返される。角度を変えながらもっと、もっと深くまで交わろうとする口吸いは、悠月の呼吸さえも奪った。
息苦しいと胸を軽く叩いて訴えれば、ラギーは小さな笑い声をこぼしながら、顎先や喉元に唇を落としていった。器用に片手で制服をくつろげていく様を、どこか他人事のように見下ろす。
「右手、使わないんですか」
頬や耳に触れた手も、腕を掴んできた手も、後頭部に添えられた手も、制服にかけられた手も、全部左手だった。特にワイシャツのボタンを外す細かい作業なんて、利き手でやった方がやりやすいだろうに。彼は右手を床に落としたままぴくりとも動かさない。欲を言えば両の手で抱き締めてほしいのだが、その言葉は口にはせずに飲み込んだ。
「あぁ……ほら、汚れてるんスよ」
君が来るまで弄ってたから、と右手を上げてみせる。「そんなの気にしないのに」と小さく口にすれば「オレが嫌なんスよ」と左指で額をぐりぐりと押された。
「でも、たしかに左手じゃボタンを外すのは苦労するッスね」
元々開けていた第一ボタンはさておき、第二と第三ボタンはラギーの手によって外されていた。ワイシャツの下に来ていたキャミソールの肌着とブラジャーが少しだけ露わになっている。豊かな……とまではいかないが、僅かに膨らんだ柔肉に唇を落としたラギーは上目遣いで「自分で脱いでみる?」と小首を傾げて悪戯に笑う。
「なっ……⁉」
その言葉に思わず短く大きな声を上げてしまった。一瞬でも可愛いなと思ってしまったが、頼み事の難易度が高すぎる。真っ赤に熟した苺のように顔を赤く染めた悠月は、蚊の鳴くような声で「むりです……」と頭を振った。
「でもほら、オレのユニーク魔法使えば、身を任せるのと同じッスよ」
ほぉら、と唇が歪む。不敵な笑みを浮かべたのを見た刹那、脳の奥が甘く痺れたような気がした。
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