ツイステッドワンダーランド
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
広大な土地を持つこの学園内には、生徒達の悪戯によって作り出された異空間や、隠れ家のように創られた建物が多く存在する――という噂があった。今は使われていない校舎の端にある鏡をくぐり抜ければ……。ある空き教室には隠し扉がある……。ある廃墟の地下には秘密の隠し部屋が……。などなど、数えたらキリが無い。その多くが上級生から下級生へと伝わっているただの噂話の為、学園関係者は目を瞑っていた。――はずだった。
「ここは……」
実験に使う草花の調達の為に、学園裏の森の中を歩いていた悠月とジェイドが辿り着いた先はとある廃墟だった。もう何十年も使われていないのか、建物の大半は朽ちており壁や扉には蔦が巻き付いている。一学年先輩であるジェイドも、この建物を見るのは初めてだったようで首を小さく傾げていた。好奇心に負けた二人はその建物へと足を踏み入れた。
体重をかければ朽ちた床板が嫌な音を立てながら軋み、いつ床が抜けてもおかしくないという状況だ。慎重に一歩ずつ足を踏み入れて暗い部屋の中を見渡していると、古びた暖炉の上で光っている石を見つけた。それがトリガーだったらしい。眩いほどの白い光に身を包まれた悠月とジェイドが、恐る恐る目を開いてみると先ほどとは全く違う空間にいることに気が付いた。
古びた木造の建物ではなく、一見は普通の部屋だ。クリーム色の壁紙が貼られた室内には、ソファーや机の他にもテレビやベッド、クローゼットやタンスといった生活用品が全て揃っていて、まるでモデルルームのようだ。煌びやかな内装とは違い、シンプルにまとめられた部屋は悠月が元居た世界を思い出させる。
「どうやら噂の一つである部屋が実在したようですね……」
指先で自身の顎先を触るようにして考え込んでいたジェイドが小さく呟く。
「噂……?」
どうやらこの世界の学校にも、七不思議のような怪談話がいくつも存在しているらしい。聞き返すようにして尋ねた悠月に、ジェイドは部屋の中を探るように歩き回りながら説明し始めた。
「学園裏にある森の奥深く、そこには何十年も前に使われなくなった廃墟がある。廃屋の中である物を見つけ出せ。それに触れたら最後、ある課題をクリアするまでその部屋からは出ることができない……」
まるで怪談話でもするかのように悠月っくりと低い声で語るジェイドに、ほんの少しだが背中が震えた。
「ある課題とは……?」
「これじゃないですかね」
部屋の真ん中にある二人掛けのソファに座り込んだジェイドの目の前には、机の上に置かれた大量の小瓶がある。小さなガラス瓶をよく見ようと、ジェイドの隣に腰掛けた悠月はそれを悠月っくりと手に取り電気の光に透かすようにして見つめた。紫色とピンク色を混ぜたような色をしており、瓶を傾けたりすればすこし粘度のある液体なのか悠月っくりと水面が傾いた。
「これ……なんですかね?」
数を数えてみれば、机の上にあるのは全部で二十六本。瓶の小蓋を開けてにおいをたしかめてみれば、お菓子のような甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐった。まさか毒じゃないよね、と無意識に表情が強張ってしまったのを見たのか、ジェイドが「毒ではないようですよ」と言いながら、既に一本飲み切ったようで空のガラス瓶を目の前にチラつかせた。
「先輩、変な薬だったらどうするんですか!」
慌てる悠月の隣で、顔色一つ変えずに「でもきっと、飲まないとここから出られないですよ」と二本目、三本目を呷っていく。何事もなさそうに喉に通していく彼を見て、悠月も安心したのか手にしていたものを自分も飲んでしまおうと、小瓶に口を付けようとする。その時だった。
瓶の口を塞ぐようにジェイドの手が現れ、飲もうとする悠月の動きを制するように優しく手を握り込まれる。なんで、と顔を上げてみれば、彼の目元や頬が少し紅く染まっているように見えた。
「ジェイド……先輩?」
「あなたは飲まなくていいです」
いつものようににっこりと微笑んだジェイドは、薬を差し出すように、と握り込んでいた彼女の手を一度離してそのまま手のひらを上に向けた。渡すのを躊躇えば、催促するように「悠月さん」と名前を呼ばれる。どうやらこちらに拒否権は無いらしい。悠月は少し呼吸が乱れているように見える彼を怪訝そうに見つめながら、悠月っくりと手に持っていた小瓶を渡した。
「……ほんとに毒とかじゃないんですよね?」
「体に害のあるものじゃないので大丈夫ですよ。……ただ、飲みすぎはあまり良くないでしょうね」
「特に、貴女のような人には……」と、付け加えるようにして呟いたジェイドは、不敵な笑みを浮かべながら悠月から渡された四本目を口に含む。迷う素振りもなく口の中の液体をごくりと嚥下した彼は、ほんの一瞬、冷ややかな視線をベッドの方へと向けて小さく舌打ちをしながら上着を脱ぎ、自身の膝の上に置いた。
机の上に並べられた残る瓶の数は二十二本。この時点で既に体調が優れない様子にみえるが、本当に彼は大丈夫なのだろうか。心配そうな面持ちで、一本、また一本と最初の頃よりは悠月っくりとしたスピードで瓶の中身を空にしていくジェイドの姿を見守る。二十本目をようやく飲み終え、残り僅かとなったところでペースを守っていた彼の手が止まった。
「……すみませんが、少し離れてくれますか?」
呼吸を乱しながらもそう言った彼は、苦笑を浮かべながらワイシャツの袖を捲り上げていく。顔や首元の赤みにはだいぶ前から気が付いていたが、晒された腕も薄桃色に染まっていた。太陽を知らないのではないか、と思うほどの白い肌の面影はそこには無く、悠月は焦燥感に駆られ無我夢中でジェイドの体に手を伸ばした。
剥き出しの筋張った腕や、汗ばむ首筋を指先で触れ、熱を帯びた頬を両手で包み込み、額に自らの額を合わせる。火傷してしまいそうなくらいの熱を纏っていた彼に、悠月は驚きながら「ジェイド先輩!」と声を荒上げた。驚愕に見開かれた左右で色の異なる瞳。熱を孕み蕩けた双眸を見て、彼女は顔を歪めた。
「体に害は無いって……そんなはずない! もう先輩は飲まなくて大丈夫です。私が飲みます。早くここから出て解毒剤貰いましょう。ね?」
これ以上は本当に危ない、と直感的にそう感じたのは悠月の本能だった。視線の定まっていない虚ろな目は熱に浮かされいる何よりの証拠であったし、元は人魚である彼が高熱を出し続けることによって人体にどんな影響を及ぼすのかも分からない。一刻でも早くこの空間から脱出し、クルーウェルやアズールに診てもらったほうがいいだろう。と、悠月は思ったのだ。
だが、ジェイドは首を縦に振らなかった。
「今、僕がどんな目をしているのか貴女なら分かるでしょう?」
頬に添えられた手だけでなく、唇を掠める息吐きもひどく熱かった。普段はよく見ることのできない、彼が欲情している姿。恋人であるジェイドと悠月が体を重ねた回数は片手で足りる。意識がはっきりとしている状況下において、欲を孕んだ彼の瞳を見るのは初めてのことだった。
小瓶の中身が媚薬であることに気が付いていた悠月は、いつもよりも血色感のある唇に自身の唇を合わせ、啄むようなキスを何度か繰り返す。「な、んで……」と驚いたように言葉を詰まらせるジェイドから悠月っくりと距離を取り、机の上に残っていた瓶をまとめて手に取った。
珍しく慌てた様子で「待って」と声を洩らすジェイドを見下ろすように立ち、手に持っていた五本の瓶の蓋を開けていく。右手に三本、左手に二本持ち一気に呷るような形で瓶に口をつけた。ごく、ごく、と何度かに分けて嚥下し、少しとろみのある液体を飲み干した。思っていたよりも味は悪くなく、濃厚なフルーツジ悠月スにような味わいと喉ごしだった。
口の端から僅かに溢れた媚薬が垂れてしまっているのを手の甲で拭い、これで大丈夫、元に戻れるだろうと胸を撫で下ろす。だが、この部屋へ飛ばされてしまった時のような現象はなかなか起きない。飲み切れば戻れるのではなかったのかと、安堵したのも束の間だった。なぜ、と焦る気持ちと同時に、体の内側からまるで発火するような熱を感じその場に座り込んだ悠月に、ソファにぐったりと身を預けていたはずのジェイドの腕が伸びた。
「ジェ…イドせん、ぱぃ……?」
心臓が激しく脈打ち、鼓動の音が全身に響き渡る。身体が火照り、全身の毛穴から汗がぶわりと滲みだすような感覚がした。節榑立った彼の細い指が、頬から首筋、胸元へと悠月っくりと這う感触をいつもよりも敏感に感じとった身体は、悠月の意思とは関係なく小刻みに震える。息苦しさに喘ぎながら、不安の色を乗せて目の前で艶のある笑みを浮かべる男の名前を呼ぶ。薄紅色の唇が僅かに弧を描いたかと思えば、その隙間から鋭い歯が見えた。
「貴女がいけないんですよ……」
ソファから降りたジェイドは、床に座り込んでしまっていた悠月を後ろから抱き締め、耳殻をべろりと人よりも長い舌で舐め上げる。耳朶に鋭い歯を充てがい、時にキスをするように柔く食んだ。
「まさか悠月さんから誘ってもらえるとは思ってもみませんでした」
丁寧な口調はいつもと変わらないが、その声には抑えきれていない興奮の色が乗っている。自分の体と比べて一回り以上は大きいジェイドに抱き込まれた悠月は、下半身に熱塊を押し付けられ無意識の内に小さな嬌声を漏らしていた。
潤む瞳は熱を帯び、き悠月っと瞼を閉じれば眦から涙が流れる。透明な珠雫が頬の上を転がり落ちていくのを、ジェイドは優しく指で掬い上げる。かわいい、と鼓膜を揺らす柔らかな低音に思わず背筋が震えた。
「これを飲むのは、もう少し愉しんでからで良さそうですね」
そう言いながら耳元でクツクツと笑ったジェイドは、悠月の目の前にある物を差し出してみせた。耳朶を擽る熱い息吐きに、じわりと蜜部が潤うのを感じた彼女が、悠月っくりと目を開いて目にした物。桃色と紫色を交じ合わせたような色の液体が入った、ガラスで出来た小さな瓶。それは紛れもなく、先ほど自分が飲み切ったはずの媚薬だった。
「ここは……」
実験に使う草花の調達の為に、学園裏の森の中を歩いていた悠月とジェイドが辿り着いた先はとある廃墟だった。もう何十年も使われていないのか、建物の大半は朽ちており壁や扉には蔦が巻き付いている。一学年先輩であるジェイドも、この建物を見るのは初めてだったようで首を小さく傾げていた。好奇心に負けた二人はその建物へと足を踏み入れた。
体重をかければ朽ちた床板が嫌な音を立てながら軋み、いつ床が抜けてもおかしくないという状況だ。慎重に一歩ずつ足を踏み入れて暗い部屋の中を見渡していると、古びた暖炉の上で光っている石を見つけた。それがトリガーだったらしい。眩いほどの白い光に身を包まれた悠月とジェイドが、恐る恐る目を開いてみると先ほどとは全く違う空間にいることに気が付いた。
古びた木造の建物ではなく、一見は普通の部屋だ。クリーム色の壁紙が貼られた室内には、ソファーや机の他にもテレビやベッド、クローゼットやタンスといった生活用品が全て揃っていて、まるでモデルルームのようだ。煌びやかな内装とは違い、シンプルにまとめられた部屋は悠月が元居た世界を思い出させる。
「どうやら噂の一つである部屋が実在したようですね……」
指先で自身の顎先を触るようにして考え込んでいたジェイドが小さく呟く。
「噂……?」
どうやらこの世界の学校にも、七不思議のような怪談話がいくつも存在しているらしい。聞き返すようにして尋ねた悠月に、ジェイドは部屋の中を探るように歩き回りながら説明し始めた。
「学園裏にある森の奥深く、そこには何十年も前に使われなくなった廃墟がある。廃屋の中である物を見つけ出せ。それに触れたら最後、ある課題をクリアするまでその部屋からは出ることができない……」
まるで怪談話でもするかのように悠月っくりと低い声で語るジェイドに、ほんの少しだが背中が震えた。
「ある課題とは……?」
「これじゃないですかね」
部屋の真ん中にある二人掛けのソファに座り込んだジェイドの目の前には、机の上に置かれた大量の小瓶がある。小さなガラス瓶をよく見ようと、ジェイドの隣に腰掛けた悠月はそれを悠月っくりと手に取り電気の光に透かすようにして見つめた。紫色とピンク色を混ぜたような色をしており、瓶を傾けたりすればすこし粘度のある液体なのか悠月っくりと水面が傾いた。
「これ……なんですかね?」
数を数えてみれば、机の上にあるのは全部で二十六本。瓶の小蓋を開けてにおいをたしかめてみれば、お菓子のような甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐった。まさか毒じゃないよね、と無意識に表情が強張ってしまったのを見たのか、ジェイドが「毒ではないようですよ」と言いながら、既に一本飲み切ったようで空のガラス瓶を目の前にチラつかせた。
「先輩、変な薬だったらどうするんですか!」
慌てる悠月の隣で、顔色一つ変えずに「でもきっと、飲まないとここから出られないですよ」と二本目、三本目を呷っていく。何事もなさそうに喉に通していく彼を見て、悠月も安心したのか手にしていたものを自分も飲んでしまおうと、小瓶に口を付けようとする。その時だった。
瓶の口を塞ぐようにジェイドの手が現れ、飲もうとする悠月の動きを制するように優しく手を握り込まれる。なんで、と顔を上げてみれば、彼の目元や頬が少し紅く染まっているように見えた。
「ジェイド……先輩?」
「あなたは飲まなくていいです」
いつものようににっこりと微笑んだジェイドは、薬を差し出すように、と握り込んでいた彼女の手を一度離してそのまま手のひらを上に向けた。渡すのを躊躇えば、催促するように「悠月さん」と名前を呼ばれる。どうやらこちらに拒否権は無いらしい。悠月は少し呼吸が乱れているように見える彼を怪訝そうに見つめながら、悠月っくりと手に持っていた小瓶を渡した。
「……ほんとに毒とかじゃないんですよね?」
「体に害のあるものじゃないので大丈夫ですよ。……ただ、飲みすぎはあまり良くないでしょうね」
「特に、貴女のような人には……」と、付け加えるようにして呟いたジェイドは、不敵な笑みを浮かべながら悠月から渡された四本目を口に含む。迷う素振りもなく口の中の液体をごくりと嚥下した彼は、ほんの一瞬、冷ややかな視線をベッドの方へと向けて小さく舌打ちをしながら上着を脱ぎ、自身の膝の上に置いた。
机の上に並べられた残る瓶の数は二十二本。この時点で既に体調が優れない様子にみえるが、本当に彼は大丈夫なのだろうか。心配そうな面持ちで、一本、また一本と最初の頃よりは悠月っくりとしたスピードで瓶の中身を空にしていくジェイドの姿を見守る。二十本目をようやく飲み終え、残り僅かとなったところでペースを守っていた彼の手が止まった。
「……すみませんが、少し離れてくれますか?」
呼吸を乱しながらもそう言った彼は、苦笑を浮かべながらワイシャツの袖を捲り上げていく。顔や首元の赤みにはだいぶ前から気が付いていたが、晒された腕も薄桃色に染まっていた。太陽を知らないのではないか、と思うほどの白い肌の面影はそこには無く、悠月は焦燥感に駆られ無我夢中でジェイドの体に手を伸ばした。
剥き出しの筋張った腕や、汗ばむ首筋を指先で触れ、熱を帯びた頬を両手で包み込み、額に自らの額を合わせる。火傷してしまいそうなくらいの熱を纏っていた彼に、悠月は驚きながら「ジェイド先輩!」と声を荒上げた。驚愕に見開かれた左右で色の異なる瞳。熱を孕み蕩けた双眸を見て、彼女は顔を歪めた。
「体に害は無いって……そんなはずない! もう先輩は飲まなくて大丈夫です。私が飲みます。早くここから出て解毒剤貰いましょう。ね?」
これ以上は本当に危ない、と直感的にそう感じたのは悠月の本能だった。視線の定まっていない虚ろな目は熱に浮かされいる何よりの証拠であったし、元は人魚である彼が高熱を出し続けることによって人体にどんな影響を及ぼすのかも分からない。一刻でも早くこの空間から脱出し、クルーウェルやアズールに診てもらったほうがいいだろう。と、悠月は思ったのだ。
だが、ジェイドは首を縦に振らなかった。
「今、僕がどんな目をしているのか貴女なら分かるでしょう?」
頬に添えられた手だけでなく、唇を掠める息吐きもひどく熱かった。普段はよく見ることのできない、彼が欲情している姿。恋人であるジェイドと悠月が体を重ねた回数は片手で足りる。意識がはっきりとしている状況下において、欲を孕んだ彼の瞳を見るのは初めてのことだった。
小瓶の中身が媚薬であることに気が付いていた悠月は、いつもよりも血色感のある唇に自身の唇を合わせ、啄むようなキスを何度か繰り返す。「な、んで……」と驚いたように言葉を詰まらせるジェイドから悠月っくりと距離を取り、机の上に残っていた瓶をまとめて手に取った。
珍しく慌てた様子で「待って」と声を洩らすジェイドを見下ろすように立ち、手に持っていた五本の瓶の蓋を開けていく。右手に三本、左手に二本持ち一気に呷るような形で瓶に口をつけた。ごく、ごく、と何度かに分けて嚥下し、少しとろみのある液体を飲み干した。思っていたよりも味は悪くなく、濃厚なフルーツジ悠月スにような味わいと喉ごしだった。
口の端から僅かに溢れた媚薬が垂れてしまっているのを手の甲で拭い、これで大丈夫、元に戻れるだろうと胸を撫で下ろす。だが、この部屋へ飛ばされてしまった時のような現象はなかなか起きない。飲み切れば戻れるのではなかったのかと、安堵したのも束の間だった。なぜ、と焦る気持ちと同時に、体の内側からまるで発火するような熱を感じその場に座り込んだ悠月に、ソファにぐったりと身を預けていたはずのジェイドの腕が伸びた。
「ジェ…イドせん、ぱぃ……?」
心臓が激しく脈打ち、鼓動の音が全身に響き渡る。身体が火照り、全身の毛穴から汗がぶわりと滲みだすような感覚がした。節榑立った彼の細い指が、頬から首筋、胸元へと悠月っくりと這う感触をいつもよりも敏感に感じとった身体は、悠月の意思とは関係なく小刻みに震える。息苦しさに喘ぎながら、不安の色を乗せて目の前で艶のある笑みを浮かべる男の名前を呼ぶ。薄紅色の唇が僅かに弧を描いたかと思えば、その隙間から鋭い歯が見えた。
「貴女がいけないんですよ……」
ソファから降りたジェイドは、床に座り込んでしまっていた悠月を後ろから抱き締め、耳殻をべろりと人よりも長い舌で舐め上げる。耳朶に鋭い歯を充てがい、時にキスをするように柔く食んだ。
「まさか悠月さんから誘ってもらえるとは思ってもみませんでした」
丁寧な口調はいつもと変わらないが、その声には抑えきれていない興奮の色が乗っている。自分の体と比べて一回り以上は大きいジェイドに抱き込まれた悠月は、下半身に熱塊を押し付けられ無意識の内に小さな嬌声を漏らしていた。
潤む瞳は熱を帯び、き悠月っと瞼を閉じれば眦から涙が流れる。透明な珠雫が頬の上を転がり落ちていくのを、ジェイドは優しく指で掬い上げる。かわいい、と鼓膜を揺らす柔らかな低音に思わず背筋が震えた。
「これを飲むのは、もう少し愉しんでからで良さそうですね」
そう言いながら耳元でクツクツと笑ったジェイドは、悠月の目の前にある物を差し出してみせた。耳朶を擽る熱い息吐きに、じわりと蜜部が潤うのを感じた彼女が、悠月っくりと目を開いて目にした物。桃色と紫色を交じ合わせたような色の液体が入った、ガラスで出来た小さな瓶。それは紛れもなく、先ほど自分が飲み切ったはずの媚薬だった。