名探偵コナン
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「ミミズを踏んで腰を抜かしたら、大好きな彼がお姫様抱っこをしてくれました」
それは毎年梅雨時に多く見られる光景だ。雨上がりの朝、道に蠢く無数の小さき生き物。乾いてきた路面の上に逃げそびれたとでも言うように蠢く奴や、無残に踏み潰されてしまった奴、そして昼間の太陽に焼かれ干からびてしまった奴等。そう、ミミズだ。あまりのミミズの多さに私はこの道を昔からこう呼んでいる。〝ミミズロード〟と。
登校中、駅に向かうまでの道のりにあるミミズロードに目を光らせ、踏まないよう慎重に歩いていると、ふと声を掛けられた。
「そんなに下ばかり見てたら危ないだろう」
「あ、赤井さんっ!?」
耳触りの良い低音に反応し、咄嗟に俯かせていた顔を上げる。その際に勢いをつけすぎて首筋を少し痛めたのは内緒だ。猛烈にアタック中の彼から声を掛けられれば、今まで全神経を集中させていたミミズのことなんか頭の中から吹っ飛んでしまう。こんな朝早くから会えるなんて思ってもいなくて、慌てて直してこなかった寝癖を誤魔化す為に、跳ねた髪の毛を手で押さえた。
「こんな時間に珍しいですね!」
「少し買い物をと思ってな」
駅前のコンビニに向かって歩き出す彼を慌てて追いかける。丁度駅に向かう私とは同じ方向だ。朝から会えた。ただそれだけでテンションは一気にMAXへ。るんるん気分で思わずスキップを踏んでしまいそうになる。高揚する気持ちをどうにか抑え込もうとするのだが、ニヤける顔がなかなか直らない。うへへ、と赤井さんにバレないように俯いて小さく笑う。あ、今私絶対気持ち悪い顔してる。顔を両手で包み込んで周りから隠すが、手の下では相変わらずのニヤケ顔。傍にいられるだけで心臓張り裂けそうなくらい嬉しいのに、チラリと横にいる赤井さんを盗み見すると、頭の中が沸騰しそうになった。
――あぁ~~もうしあわせっ!!
溢れんばかりの幸福感に体がゆらゆら勝手に動いてしまう。湧き上がる多福感は抑える事ができなかった。そう、奴等をすっぱり忘れてしまうくらいには。胸があまりにも幸せでいっぱいになって苦しいので、少しでも逃がしてやろうと感嘆のため息を吐いた時だった。ふんわりと恋する乙女のフィルターが掛かった世界の端に、奴が映った。
視界の端でうにょうにょと蠢くミミズ。その姿を目視した私は、咄嗟に踏み出した足にブレーキをかけて避けようとする。が、その伝達信号はコンマ数秒遅かった。
「ひぃ…っ!!」
喉から搾り出されたようなか細い悲鳴。
「どうかしたか?」
赤井さんに呼び掛けられるも、いつもみたくすぐに返事ができない。すっかり力の抜けてしまった足は体を支えることができず、そのまま尻餅をついてしまった。レンガにお尻をぶつけた痛みよりも、膝上まで短くしたスカートが捲れてしまいパンツが丸見えなことよりも、足裏からゾクゾクと駆け昇る不快感が勝り、あっという間に多福感が占領していた頭を支配してしまった。
「う、うぁ~……」
恐る恐る足をどかしてみるとレンガと靴底で擦れ無惨な姿となった奴がいる。
「さいあく………っ」
折角、朝から赤井さんに会えて気分は絶好調だったのに、一気に落とされてまるでジェットコースターにでも乗ってる気分だ。いや、気持ちの折れ線グラフ的にはフリーフォールと呼称した方が合っているのかもしれない。
「何をしてるんだ」
「あ、赤井しゃ~ん……」
もう泣きたい。いや、もう泣いてる。
尻餅をついたまま一向に立ち上がらない私に合わせて、彼はわざわざしゃがみこんでくれる。
「腰抜けた……」
こんな時に限って踏んでしまったミミズはビックリするほど太い・長い・大きい。質量が大きいのは食べ物だけにとどめておいて欲しい。泣きべそをかきながら、赤井さんの顔色を恐る恐る窺うと、彼は驚いたことに小さく笑った。
「しょうがないお姫様だな」
ひょいっと私の体を軽々持ち上げる。
「え」
「いつまでもあのままというわけにはいかんだろう」
いつもよりも三十センチ以上は高い目線。首の後ろを痛めながら、いつも見上げていた赤井さんの顔が、すぐ傍にある。目を見開いてその顔を見つめながら、口をはくはくさせている私のことは置いてけぼりで、赤井さんの長い脚はずんずん駅へと向かっている。出勤中や登校中の人達からの、特に女性からの視線が体中に突き刺さってるような気がして心無しか凄く痛い気がする。
「あ、あ、あ、あか、あかいさんっ!?」
ようやく出てきてくれた声は、自分でもびっくりするほど大きい。またもや道行く人の視線を集めてしまい、身を小さくしながら声のトーンも落とした。
「あ、あの……お、おろしてください……」
「歩けないのだろう。駅までの辛抱だ」
――んんっ……!! 心臓が痛いです……!!
我が人生、一遍の悔いなし。とは正にこういう気持ちのことを言うのだろう。だって、大好きな人にお姫様抱っこをされているのだ。女の子の憧れ、お姫様抱っこ。それも軽々と顔色一つ変えずにやってしまうのだから堪らない。
「もう死んでもいいや……」
「ミミズを踏んだくらいで大袈裟だな」
別にミミズを踏んでしまったから死にたい訳じゃない。いつもより近くに香る彼の匂いをしっかり堪能すると、駅に着く頃には抜けていた足腰の力もすっかり元に戻っていた。
それは毎年梅雨時に多く見られる光景だ。雨上がりの朝、道に蠢く無数の小さき生き物。乾いてきた路面の上に逃げそびれたとでも言うように蠢く奴や、無残に踏み潰されてしまった奴、そして昼間の太陽に焼かれ干からびてしまった奴等。そう、ミミズだ。あまりのミミズの多さに私はこの道を昔からこう呼んでいる。〝ミミズロード〟と。
登校中、駅に向かうまでの道のりにあるミミズロードに目を光らせ、踏まないよう慎重に歩いていると、ふと声を掛けられた。
「そんなに下ばかり見てたら危ないだろう」
「あ、赤井さんっ!?」
耳触りの良い低音に反応し、咄嗟に俯かせていた顔を上げる。その際に勢いをつけすぎて首筋を少し痛めたのは内緒だ。猛烈にアタック中の彼から声を掛けられれば、今まで全神経を集中させていたミミズのことなんか頭の中から吹っ飛んでしまう。こんな朝早くから会えるなんて思ってもいなくて、慌てて直してこなかった寝癖を誤魔化す為に、跳ねた髪の毛を手で押さえた。
「こんな時間に珍しいですね!」
「少し買い物をと思ってな」
駅前のコンビニに向かって歩き出す彼を慌てて追いかける。丁度駅に向かう私とは同じ方向だ。朝から会えた。ただそれだけでテンションは一気にMAXへ。るんるん気分で思わずスキップを踏んでしまいそうになる。高揚する気持ちをどうにか抑え込もうとするのだが、ニヤける顔がなかなか直らない。うへへ、と赤井さんにバレないように俯いて小さく笑う。あ、今私絶対気持ち悪い顔してる。顔を両手で包み込んで周りから隠すが、手の下では相変わらずのニヤケ顔。傍にいられるだけで心臓張り裂けそうなくらい嬉しいのに、チラリと横にいる赤井さんを盗み見すると、頭の中が沸騰しそうになった。
――あぁ~~もうしあわせっ!!
溢れんばかりの幸福感に体がゆらゆら勝手に動いてしまう。湧き上がる多福感は抑える事ができなかった。そう、奴等をすっぱり忘れてしまうくらいには。胸があまりにも幸せでいっぱいになって苦しいので、少しでも逃がしてやろうと感嘆のため息を吐いた時だった。ふんわりと恋する乙女のフィルターが掛かった世界の端に、奴が映った。
視界の端でうにょうにょと蠢くミミズ。その姿を目視した私は、咄嗟に踏み出した足にブレーキをかけて避けようとする。が、その伝達信号はコンマ数秒遅かった。
「ひぃ…っ!!」
喉から搾り出されたようなか細い悲鳴。
「どうかしたか?」
赤井さんに呼び掛けられるも、いつもみたくすぐに返事ができない。すっかり力の抜けてしまった足は体を支えることができず、そのまま尻餅をついてしまった。レンガにお尻をぶつけた痛みよりも、膝上まで短くしたスカートが捲れてしまいパンツが丸見えなことよりも、足裏からゾクゾクと駆け昇る不快感が勝り、あっという間に多福感が占領していた頭を支配してしまった。
「う、うぁ~……」
恐る恐る足をどかしてみるとレンガと靴底で擦れ無惨な姿となった奴がいる。
「さいあく………っ」
折角、朝から赤井さんに会えて気分は絶好調だったのに、一気に落とされてまるでジェットコースターにでも乗ってる気分だ。いや、気持ちの折れ線グラフ的にはフリーフォールと呼称した方が合っているのかもしれない。
「何をしてるんだ」
「あ、赤井しゃ~ん……」
もう泣きたい。いや、もう泣いてる。
尻餅をついたまま一向に立ち上がらない私に合わせて、彼はわざわざしゃがみこんでくれる。
「腰抜けた……」
こんな時に限って踏んでしまったミミズはビックリするほど太い・長い・大きい。質量が大きいのは食べ物だけにとどめておいて欲しい。泣きべそをかきながら、赤井さんの顔色を恐る恐る窺うと、彼は驚いたことに小さく笑った。
「しょうがないお姫様だな」
ひょいっと私の体を軽々持ち上げる。
「え」
「いつまでもあのままというわけにはいかんだろう」
いつもよりも三十センチ以上は高い目線。首の後ろを痛めながら、いつも見上げていた赤井さんの顔が、すぐ傍にある。目を見開いてその顔を見つめながら、口をはくはくさせている私のことは置いてけぼりで、赤井さんの長い脚はずんずん駅へと向かっている。出勤中や登校中の人達からの、特に女性からの視線が体中に突き刺さってるような気がして心無しか凄く痛い気がする。
「あ、あ、あ、あか、あかいさんっ!?」
ようやく出てきてくれた声は、自分でもびっくりするほど大きい。またもや道行く人の視線を集めてしまい、身を小さくしながら声のトーンも落とした。
「あ、あの……お、おろしてください……」
「歩けないのだろう。駅までの辛抱だ」
――んんっ……!! 心臓が痛いです……!!
我が人生、一遍の悔いなし。とは正にこういう気持ちのことを言うのだろう。だって、大好きな人にお姫様抱っこをされているのだ。女の子の憧れ、お姫様抱っこ。それも軽々と顔色一つ変えずにやってしまうのだから堪らない。
「もう死んでもいいや……」
「ミミズを踏んだくらいで大袈裟だな」
別にミミズを踏んでしまったから死にたい訳じゃない。いつもより近くに香る彼の匂いをしっかり堪能すると、駅に着く頃には抜けていた足腰の力もすっかり元に戻っていた。