【DC】恋するおまわりさん【安室透/降谷零】休止中
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ある男の子が交番へやって来たのは、私が再び常連客としてポアロに何度も足を運ぶようになった頃のことだった。
「おまわりさん」
気恥かしさの残る小さな声は今にも泣き出しそうなくらい弱々しかった。ようやくランドセルを背負い始めたであろう年の男の子は、A4サイズの紙をギュッと手に持ちお母さんの後ろに隠れるように立っていた。
「ん? どうしたの? ぼく」
交番の前で道行く人を見守っていた私は、男の子と目線を合わせるためスカートを巻き込みながらしゃがみ込んだ。怖がらせないよう、にっこり笑いかけながら優しい声で。すると、男の子は持っていた紙を私の前に差し出した。
「レイちゃん、いなくなちゃった……」
差し出された紙を受け取ると、男の子はすぐにお母さんの足にしがみついてしまった。
『ネコさがしてます』という大きな文字と一緒に、グレーのトラ猫の写真が大きく載せられており一緒に特徴等が書かれていた。名前「レイ」、性別「メス」、年齢「3歳」性格「おとなしい子ですが、慣れない外で臆病になっているかもしれません」等々。
男の子が持っていた紙はくしゃくしゃによれていて、所々文字が滲んでいる。きっと男の子が握り締めた為にくたびれ、零れた涙が文字を滲ませた。
「この子が物心ついた時に拾ってきた猫なんです。猫の方が成長も早いから、すっかり立場は逆転してしまって、この子にとってはお姉ちゃんのような存在なんです。先日のお祭りの花火に驚いて開いていたベランダの窓から逃げちゃって……」
しがみつたまま泣き始めてしまった男の子を、お母さんはあやしながら逃げ出してしまった日のことを説明してくれた。
「お姉ちゃんに任せて。絶対、レイちゃん見つけてあげるから」
「……ほんと?」
「もちろん。レイちゃんもきっーと、おうちに帰りたいなってしくしく泣いちゃってるだろうから。早く見つけてあげようね」
「うんっ! やくそく!!」
「約束」
突き出された小さな小指に指を絡ませると、嬉しそうに笑いながら覚えたての」ゆびきりげんまん」を歌いだした。母親から新しいビラを受け取り、親子を見送ると署内にいた上司に小さくため息を付かれる。その意図は恐らくこうだ。『あまり親身になりすぎるな』。
「業務はきちんと行います。休憩時間とか、隙間時間だとか、プライベートで個人的に探すのは問題ないですよね」
「ある程度できちんと見切りを付けろよ。ほら、上がりまでパトロールついでに探してこい」
「あ、ありがとうございますっ!」
貰ったビラを一枚、交番の窓に貼り付け残りをトートバッグに詰め込む。自転車に乗ってパトロールをするために、制服のスカートをズボンに履き替え手早く準備を整える。急ぎ足で交番を後にし自転車に股がる。既に米花町は一通り見て回っているようで、町の至るところにビラの貼り紙を見かけた。
自転車を押して歩きながらキョロキョロと辺りを見渡していると、前の方から見知った顔ぶれが歩いてくる。彼等も私の姿を見かけるなり、元気に手を振って駆け寄ってきてくれた。
「こんにちは。何をしてるの?」
「こんにちは! あのね、レイちゃんってネコを探してるの。この子なんだけどね」
「隣りのクラスの子に依頼されたんですよ」
「俺たち少年探偵団にかかればちょろいもんだぜっ」
「お姉さんはパトロール中?」
どうやら依頼してきた子は、彼等と同じ帝丹小学校に通う小学一年生のようだ。歩美ちゃん、光彦くん、元太くん、そしてコナンくんと哀ちゃん。彼等は本庁捜査一課にいる目暮警部達も目を丸くさせるくらい優秀な将来有望な小さな探偵くんたちだ。毛利先生の家に居候しているというコナンくんと、米花町で起こる事件現場にてよく顔を合わせていたことからよく話すようになったのだ。
「あら。私もレイちゃんを探してるの。君たちも一緒なら凄く心強いな」
膝に手を当て上体を少し屈めてにっこり笑うと、コナンくんと哀ちゃん以外の三人は得意げに「少年探偵団にお任せあれ!」と決めポーズをとってみせた。その後ろで二人は苦笑いを浮かべたり澄ました顔をしているのがどこか大人びていて、とても小学一年生には見えない。
「レイちゃん探しも凄く助かるけど、暗くなる前にはちゃんとお家に帰ること。あと、知らない人には連いて行っちゃ駄目よ」
元気な返事を聞き、よろしいっ! と声を掛けると子ども達は元気にまた走り出した。その小さな背中が消えていくのをしっかりと見守り、再び前を向く。上がり時間まであと一時間程だ。ぐぐっと両腕を上に上げて体を伸ばし、よしっと気合を入れ直す。晩御飯には先日作り置きしておいたカレーが残っている。退勤後も帰路を探してみよう。自転車を再度押すと、カラスの鳴き声大きく空に響いた。