【DC】恋するおまわりさん【安室透/降谷零】休止中
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眠たい目を擦りながら朝日が顔を出すのを迎える。暗闇に慣れた目には朝日は毒も同然で、目覚め始める街並みに目を向けようとするものの光には勝てず目を瞑った。大きく欠伸しながら体を伸ばしていると、同僚から引継ぎの準備をしろと怒られた。
いつもは引継ぎ書なんて作らないのだが、昨晩は特に忙しかった為に作らざる得ない。担当した件をまとめ、非番の間に依頼主が来ても対応できるようにするためだ。紛失届と一緒に、依頼主から聞いたその時の様子を簡単にメモ書きしていたものを清書しまとめていく。後は、昨晩の帰宅ラッシュに起きた痴漢騒動の報告書が二件。深夜の時間帯に酔っ払い客が暴れ、店の通報によって警察沙汰になった件もあり、ろくに仮眠も取れていなければ報告書も完成していない。花金ということもあって、お酒を嗜む人がたくさんいたせいだ。
疲労が溜まった体を睡魔が襲う。どんどんと重くなる瞼に、ふわふわと意識が飛びかけそうになる。堪らずポットのお湯を湧かしてインスタントコーヒーを手に取った。
「コーヒー飲みますか?」
「あぁ、頼む」
同僚二人にも声をかけ、バックヤードに常備しているマグカップを3つ並べ、スプーンで掬い取ったコーヒーの粉末を入れる。適量のお湯を入れてかき混ぜ、あとは好みでミルクと砂糖を入れて終わり。ドリップしたコーヒーの足元にも及ばないが、簡易的に飲むだけなので我慢だ。
猫舌のせいですぐに飲めないコーヒーから立ち昇る湯気をしばらく見つめ、報告書の作成を始める。始発も始まり、ちらほら駅まで向かう人の姿が見え始めた頃だった。
「んんぅぅ~~……‼ 終わったぁぁーー」
報告書に押印してようやく報告書が出来上がると、一気に疲労感が溢れ出てきた。早く帰ってシャワー浴びて布団に潜り込みたい。でもその前に、夜ごはんにカップラーメンを食べたきりで空腹を訴えるお腹に何か入れてあげなければならない。
交代の同僚が出勤し、更衣室で着替えている間に朝ごはんはどうしようかと、回らない頭が考え始める。今にでも停止してしまいそうな思考は、お昼に食べたハムサンドの味を思い出していた。
着替えが終わった同僚に引き継ぎ書を渡し、口頭で説明を加える。理解したのを確認した上で上がる準備しながら待っていると、他の同僚の引継ぎも終わったようで所長から勤務終了の声がかかった。
先に更衣室を使わせてもらい手早く着替える。崩れた化粧を簡単に直して、帽子の下でぺちゃんこになってしまった髪の毛はどうにもならないので、簡単に纏め直して退勤すると、足先は迷わずポアロへと向かっていた。
かつかつとヒールを鳴らしてお店を目指すのだが、途中窓ガラスに映る自分と目が合いその足は止まった。
崩れた化粧を簡単に直しただけで顔も洗っていなければ、制汗剤は使用したもののシャワーすら浴びていない。おまけに仮眠はろくに取れず、目の下には隈ができていて寝不足からか顔色も悪い。
やっぱり朝ごはんは適当に近所にあるパン屋で買って、仮眠を取ってからお昼にもう一度来よう。そう思って踵を返した時だった。
「あれ、おはようございます。来てくれたんですね」
ほぼ徹夜明けの私にとって天敵とも思えるような太陽。それに負けないくらいきらっきらに輝く笑顔。一番見られたくない人に見つかってしまった。梓ちゃんが相手ならまだしも、まさかの可能性であった安室さんに対面してしまうとは私の運も尽きてしまったようだ。ここまで来たら開き直ろう。どうせ昨日初めて会った時も髪の毛はぺしゃんこだったし前髪は割れていた。
「おはようございます。家に帰る前に朝ごはんを、と思って」
「家に帰る前……夜勤だったんですか? でも昨日は昼前からもう勤務されてましたよね? てっきり日勤だったのかと」
「あ、人数が足りなくて夜勤にも入ってたんです。その代わり今日明日は非番なのでゆっくり休めます」
「折角の土日ですもんね。どうぞ、中へ。適当に席にお座りください。メニューはご覧になりますか?」
昨日のようにスマートなエスコートには惚れ惚れしてしまう。この人にとって、女性をエスコートするのは呼吸をするのと同じなのだろうか。そう思わず疑ってしまうくらいだ。開けてくれた扉を潜り抜け、誰も席についていないカウンター席へと向かう。
「えぇ、お願いできますか? 随分と来ていなかったもので」
「かしこまりました。少々お待ちください」
カウンター席に着くのと同時に、安室さんはカウンターの向こう側へ。おしぼりをまず最初に用意され、コースターの上に水の入ったグラスが置かれた。次に小さなメニューを広げ、モーニングメニューの欄を一つずつ指さし説明してくれる。料理の名前と一緒に、写真が載っているのだが、視線は料理の写真や名前ではなく、紙面をなぞる指先へ。短く切り揃えられた爪に、節々が太く長い指、手の甲には太い血管が浮き上がっていて、見るからに私の手より一回り以上大きそうだ。これを俗にいう、男らしい手と言うのだろう。こんなにもじっくりと他人の手を観察するのは初めてのことで、もしかして私は手フェチだったのだろうか、と頭を過ぎった。
頭上からふふっと小さな笑い声が聞こえ、慌ててどこかへ散歩に出かけていた意識を元に戻してから顔を上げると、彼は柔らかく微笑みながら「すみません」と口を開いた。
「お疲れのようですね。そうだな……『トマトと海老のリゾット』なんてどうですか? 今朝新鮮な小海老が届いたので、よかったらどうです?」
「わっ! 海老大好きです」
「よかった。すぐに用意します」
冷蔵庫の中から具材や、炊飯器の中に残っていたご飯を盛り、準備を始める。その手際の良さを用意してくれた水を少し見ながら見ていると、バックヤードから少し眠そうにあくびをしながら梓ちゃんが顔を出したのが見えた。ふわふわと「おはよー」と安室さんに対して挨拶した梓ちゃんに向かって手を振ると、彼女は目を丸くさせた。残っていた眠気など一瞬にして吹っ飛んだようだ。私を見るなり、少し驚いた表情を浮かべた彼女の心の中は簡単に透けてみえる。
「今、〝ここ数ヶ月、まったく来てなかったのにどうして朝からいるんだろう〟って思ったでしょ」
「うっ……。で、でも嬉しいよ! でも朝ごはんから来てくれるなんて、これからどこかお出かけ?」
「ん? あぁ、違うの。夜勤明けで、家に帰る前に朝ごはん食べてこうと思って」
「え、昨日は日勤じゃなかったの? ほら、午前中の巡回してたんでしょ?」
「それが夜勤の人が体調不良で来れなくなっちゃって、それに昨日は花金でしょ? 酔っ払いのトラブルが多くて、まさしく猫の手も借りたいって状況だったから残ったのよ。その代わりに明日もお休み貰えたし……」
昨晩のバタバタは思い出すだけでも嫌になる。そこまでは饒舌だった口も、思い出してしまえば終息の糸を辿る一方だ。大きく肺を膨らませ深く深呼吸をすると、少し気を抜いた瞬間を見逃さなかったのか睡魔が畳み掛けてきた。うとうと、うとうと。重たくなった瞼が下がり、体は自然と舟を漕ぎ出す。思っていた以上に疲労が溜まっていたようだ。
「ねぇ、バックヤードのソファ使ってもいいから少し仮眠取っていけば?」
「んー……悪いよ。食べたらすぐ帰って寝るし大丈夫」
どうにか瞼をこじ開け、心配そうに私の顔を覗き込む梓ちゃんに大丈夫だと笑う。丁度その時、コンロの方から美味しそうなトマトソースの匂いが運ばれてきて、お腹の虫が小さく鳴る。食欲が睡魔を上回り、少しだけ目が覚めてきた。
目の前に出された白い皿に盛りつけられたリゾットと、ハーブの浮かべられたアイスティー。早速口へ運んで、その美味しさに思わず頬を溶かした。
「おいしぃ~~」
すっかり目も覚め、スプーンを持つ手が止まらない。プリプリとした海老は、オススメされただけあって、小さくても身がしっかり締まっている。喉を通りづらいご飯も、スープの比率が多めであればするすると喉を通る。ハーブの香りが漂うアイスティーは、心無しか眠気を吹っ飛ばしてくれるようだ。
あっという間に皿の上の物を平らげ、胃も満足に膨らむ。このままではまた第何波かも分からない睡魔が襲ってきそうだ。手早く手荷物をまとめて、財布を手に席を立つ。梓ちゃんを相手に会計を済ませ、日照りの強くなりだした外へと出た。