目をギュッと瞑ると、知らぬ間に溜まっていた、涙がポロっと溢れた。


妖怪は大木に叩きつけように、奈由を勢いよく手放した。

死を意識した奈由は
自分の中の時間がスローモーションになっていくのを感じた。

死ぬ間際に見える走馬灯。

過ぎる記憶は…





南野君の、寂しそうな…





「やめろおおおお！」


『っ！？わぁあっっ！！』

私の身体に走った衝撃は
大木に叩き付けられたものではなかった。

誰かが私を抱き止め、衝撃を防いでくれた。

閉じていた目を、ソッと開くと
そこに立っていたのは…

『幽…助…君…？』

「…ったく！近寄んなって、昨日言ったばかりじゃねぇかよ！」

私を抱え、呆れた顔で、こちらを見つめているのは

まぎれもない…浦飯幽助君だ。

ああ…助けてくれたんだ。私、生きてるんだ。


「昨日の霊界探偵か。性懲りも無く、またやられに来たのか！」

「剛鬼…。生憎だな！俺は頭が悪いんだよ！」

幽助が、優しく奈由を、地面に下ろすと茂みに隠れていた
ぼたんが姿を現した。

「奈由ちゃん！！」

『ぼたんちゃん…』

奈由は、駆け寄ってきたぼたんに、力なく寄りかかった。

「ぼたん、奈由のこと頼んだぜ」

「……うん！」

ぼたんは、奈由を抱えて、少し離れた場所へと移動した。


剛鬼と幽助の間には
殺伐とした嫌な空気が流れている。