第29話:それぞれの想い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
静流の言葉に、奈由はコクリと首を縦に振った。
そして、少しづつ
心に抱く、不安を吐露していった。
『彼は……もともとは妖怪で、蔵馬っていう名前なんです。今は南野秀一という名で人間として暮らしているけれど……彼の中には、確実に…蔵馬としての本性が…眠っているんです』
「……それで?」
『私……秀一君のことを……蔵馬としては…見ていないから…』
だから
秀一君の中に
蔵馬の姿を見出すのが、怖い。
彼は、きっと
この暗黒武術会を
南野秀一としてではなく、妖狐蔵馬として挑むはず。
この大会を通じて
絶対に、嫌でも、彼の姿に
蔵馬を見ることになる。
その時、私はどう感じる?
目の当たりにした時…自分の心に、どんな感情が芽生える?
想像しても…想像しきれない。
「つまり奈由ちゃんは、蔵馬君としてではなく…秀一君として、彼のことを好きなんだね」
『そう……なんだと思います』
蔵馬と秀一君を、2人で1つの存在…そう認識した方が分かりやすいし、悩まないで済むのかもしれない。
だけど、私は…
2人を別々の存在として捉えて、切り離して考えてしまってる。
私の恋する想いは、紛れもなく
蔵馬に対してではない。
秀一君に対してのものなんだ、と。
「でもさ、蔵馬君にしろ秀一君にしろ…どちらも同じ人格なんだろ?そこを切り離して考えてたら、ややこしくないかい?」
『それは…よく分かってるんです、自分でも。面倒臭い考えしちゃってるなって。でも…私にとっての彼は…どこまでいっても…南野秀一君なんです』
ーー秀一君。
と…名を呼んで、振り返る時の、彼の柔らかな眼差しが好き。
時々は厳しくもあるけれど、その厳しさこそに、思いやってくれる優しさがある…そんな彼が大好き。
どんな時も、家族のことを大切に想う姿だって……愛おしさを感じる。
私の気持ちは、いつだって
秀一君の方へ、向いているんだ。
だからこそ、怖い。
蔵馬を…深く知るのは。
また…私の中に眠る
ーー木花が、動き出してしまうんじゃないかって。
「複雑な乙女心だね」
『そう…ですね』
「でもまぁ、その悩みはさ…はっきり言って取り越し苦労だよ。起こっても見ないことに今悩んでだって仕方ないだろ?それよりも大切にしなくちゃいけないことは…秀一君のことが1番大好きだという、その気持ちじゃない?」