第27話:大切な君と君へ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「………分からないんだ」
秀一の言葉は
意外なほど、弱々しいものだった。
だが、そんな弱々しさとは裏腹に、奈由を抱き締める力は徐々に強まった。
「自分でも…分からないんです。再び木花として生きることを、君に…望んでいる…ようで…望んでいない」
『どっ……どっち?』
いつだって冷静で、常に明確な考えを持ち合わせていると思っていた秀一から、意外なほど曖昧な、悪くいえば…優柔不断な返答が返ってきたことに、奈由はおもわず面食らった。
だが、心に灯ったその想いを、嘘偽りなく、秀一は次々と言葉にして紡いでいった。
「ごめん。困惑しているのは…俺も同じなんだ。君と過ごすようになってから、明確な答えを…ハッキリとした想いが…分からなくなっている」
あの日
蟲寄市で、君と初めて出逢った時。
あの時までは、間違いなく
木花と蔵馬として
再び、共に生きる未来を心に描き、望んだ。
ーーだけど
木花の記憶を失い
生まれ変わった奈由は
木花とは違った
不思議な、魅力を秘めていた。
「貴女の隣は……この上なく、心地が良い」
秀一は、奈由の頬にソッと手を添えると、愛おしげに見つめた。
「木花のことは…確かに、今でも大切です。あの時に戻れたらと思う瞬間も…正直ある。だが、生まれ変わった奈由のことも…同じくらい大切なんだ。今の…そのままの君が…」
ーー木花と奈由ーー
俺は
2人の君に
それぞれ同時に、惹かれている。
どちらも大切なんて…自分でも呆れてしまう。
あまりに、優柔不断で最低だと。
だけど、今はこれ以上の答えが
自分の中に、見当たらないんだ。
木花、奈由
2人は、俺にとって
どちらも愛おしく
どちらも失いたくない存在だ。
「…すみません。どちらも大切だなんて…あまりに自分勝手ですね」
秀一は、奈由の頬から手を離し、抱き寄せていた力も緩めた。
視線を逸らし、バツの悪そうな表情を見せながら、申し訳なさそうに俯く。
『………』
どちらも大切と言われると
複雑な気持ちではあるけど…
だけど
そんな秀一君の姿に
どこか、ホッとしてしまった。
『ちょっと……嬉しいかも』
「え…?」
『秀一君って、どこまでも完璧な人だと思ってたけど…でも、こんな風に戸惑ったり…自分の気持ちが分からなくて悩んだりも…するんだね』