第16話:月夜の願い 後編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「良かった。本当に…良かった…うっぐ…」
遠慮がちに病室を覗くと、最初に目に飛び込んだのは、志保利の手を握りしめる1人の男性の姿。
親戚の方かな…?
そして…男性から少し距離を取る位置に、優しい眼差しの南野秀一がいる。
その姿を前に、奈由は心の底から安堵した。
微笑みながら南野を見つめていると
奈由の視線に気が付いた南野が、入り口の方へと振り向いた。
『あっ…』
目がバッチリと合うと、奈由は戸惑った顔を見せてキョロキョロと目を泳がせた。
すると南野は微笑みながら
ゆっくりと奈由に近付いた。
…制服が汚れている。
顔には、土埃。
膝も…転けたのか。血が滲んでいる。
目の前にいる、傷だらけの彼女は
その痛々しい姿とは裏腹に、表情だけは晴れやかで明るいものだ。
どこからどう情報を聞きつけたのか知らないが…
ここまで
こんなに、なるまで
俺のことを、探してくれていたのか。
「……本当に、すみません」
『え?な、何が…?』
「こんなに傷だらけになるまで…探してくれていたんでしょう?俺のことを…」
『え?あ…ああ!?わ!わ!?制服凄いことになってる!?』
改めて、自分の姿を見ると…制服もグシャグシャ。
足も至る所が傷だらけで、ボロボロだ。
こんな姿で南野の前にいると思うと、ジワジワと羞恥心が込み上げてくる。
奈由は、そんな恥ずかしさを誤魔化そうと、真っ赤にした顔で笑顔を見せた。
『ち、違うの違うの!これは、私がドジ踏んじゃっただけで…南野君が謝ることなんて1つもないよ!そ、それに………』
それに…謝るのは、私の方。
『ごめん…。余計なことばっかりして。南野君が、死んじゃうかもしれないって思ったら…いてもたってもいられなくて…』
今思えば、ゾッとする話だ。
共に、暗黒鏡に手を翳し
咄嗟ながら、捨て身の覚悟を決めた私。
結果として、命を取られずに済んだけれど
もし、あそこで私まで死んでいたら
きっと
南野君を、ふたたび
悲しませる結果になっていたはず。
そこまで考えが及ばずに、軽率な行動を取ってしまった。
蔵馬と木花の悲しい恋を
連想させるような悲劇を…
再び、招いていたかもしれないのに。