『Please Please stay by my side forever.』
「そりゃ、こんなんでも王国時代は首都だったからね。アバロンほどじゃないけど、カンバーランドじゃ都会な方だよ」
煙草を灰皿に擦りつけ、空いた手でメディアは遠くを指さした。
「あそこに、時計台があるだろう?あの下辺りが、アタシの実家」
「へぇ…あれ、親御さんに挨拶とか行かなくて良いの?」
皇帝アガタ率いるバレンヌ帝国部隊がこのダグラスに到着したのは、昨日の早朝。
この街で準備を整え、そのまま南方のネラックへ行き、アガタの兄・ポール率いるホーリーオーダー部隊と合流。
そのまま、南の長城からステップへ入る。
そして、ステップの遊牧民・ノーマッドと協力して、七英雄ボクオーンを倒す…それが、今回の旅の目的だった。
当然、危険な任務だ。生きて帰ってこられる保証は無いだろう。
アバロンからこちらへ来る途中に経由したソーモンで、ロナルドは一応家族の元へ顔を出した。
ところがメディアは、その言葉に苦笑して「それが普通の発想だろうけどねぇ」と呟く。
「うちの親、その逆でさ。でかい戦の前には、顔出しに来るなって言ってんの」
「なんで?!もしかしたら、これが最後になるかもしれないのに?」
「さあね…。まあ、親父の言い分を借りりゃ、『最後だと思って会うと本当に最後になるから』ってな話だったけどさ。実際はどうなんだか。
ただ、2人とも傭兵出身だから、そういう験担ぎとかにはうるさいんだわ。だから、帰るに帰れないってやつ。遠征でもなきゃ、カンバーランドになんて来ないんだからさ」
メディアは、小さくため息を吐いた。
無事に帰ってこられる保証が無いのは、自分が一番よく分かっている。
「ってかあんた、アタシより自分の心配しなよ。アタシはアガタの近くにいられるけど、あんたはポールと一緒に裏から潜入すんだから。どう考えたって、そっちの方が危険でしょうが」
「そりゃそうだけど…そんなの、机上の空論に過ぎないだろ。実際にどっちが危険かは、入ってみないと分からないし。ただオレとしては、シゲンの策とみんなの力量を信じるだけさ」
予想通りすべてが進むなんてあり得ないことは、メディアだって分かっている筈なのに。
ロナルドはそう思ったが、メディアは黙って煙草に火を点けた。