『Please Please stay by my side forever.』
紫煙の香が鼻腔をくすぐり、目が覚める。
正確には、目を開いたにすぎない。
まだ太陽は昇らず、東の空が僅かに白み始めたばかり。普段なら気にしない空模様が気になるのは、窓が開け放たれているからだ。
窓際に寄りかかる、シャツ1枚羽織っただけの、"彼女"の横顔。
白い肌に黒々とした髪。
それらを早朝の光が照らし、僅かに青白く見せる。
その中でも尚、赤々とした唇の間に紙巻煙草をくわえ、ゆっくりとくゆらせる。
その横顔は、まるで作られたかのような美しさ―一言で言うなら、「絵になる」光景であった。
そんな絵姿を、未だはっきりしない瞳で見つめていたロナルドに、彼女が気が付く。
「おや、お目覚めかい?」
窓枠に乗せた灰皿に灰を落としつつ、彼女はこちらを見つめる。
口元には、笑みを浮かべて。
ロナルドは、僅かに痛む額を腕で覆って、返事の代わりに小さく頷いた。
頭痛の原因など、恐らくはいつもより飲み過ぎた、昨夜の酒だ。
大したものではないし、放っておけば治まるだろう。
それでも、すぐに起き上がる気にはなれなかった。
「調子に乗るからだよ。カンバーランドの地酒は、口当たりは良くても強い。覚えておきな」
「…肝に銘じます」
歩兵団の飲み会で、酒には鍛えられているつもりだっただけに、自分の今の状態がおかしく感じられる。
しかし、眠気からは次第に解放され、少しずつ頭はすっきりしてきた。
「いつから起きてた?」
「ん?ついさっき」
「普通、逆だよな。煙草吸ってる横で、男がシーツにくるまってるなんてさ」
口ではそんなことを言いながらも、上半身を起こすのがやっと。
そんなロナルドを、メディアは片腕でひょいと抱き寄せた。
「おやおや、昨夜はちょいと激しすぎたかい?」
「姉さん…それ、皮肉?」
「いや、ただの朝の挨拶だよ」
そこへきて、5歳の歳の差は大きい。
どう考えても、彼女より年上になることはできないのだから。
彼女は軽口を叩きながら、煙草を吸いながらも窓の外を眺めていた。
ダグラスでも小高い丘の上にあるこの部屋からは、町並みが一望できる。
「ごらん、これがアタシが育った街…といっても、こんな時間じゃまだ静かだけどね」
「良い街だね。でも、同じ海沿いの街なのに、ソーモンとは空気が違う」
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