弟ぶるーす


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「くしゅんっ!」

ティーカップを持ったまま、ピーターは小さなくしゃみをした。

その拍子に、波打ったお茶が溢れ、彼の膝を濡らす。

「おいピーター、大丈夫か?」

傍らのタウラスが、素早くハンカチを渡す。

「大丈夫、ありがとうタウラス」

「どうしたんだよ急に。風邪か?」

辺りの書類に害が及ばないよう気を配りつつ、ロナルドがそう言った。
ピーターとしてはなんの身に覚えもないが、一瞬なんとも言えない寒気を感じた気がする。

「いくらなんでも、こんな季節に風邪ってこともないと思うけど…なんだか少し寒気がね」

「気をつけろよ。いくらもうすぐアガタが帰ってくるったって、今お前が倒れたら面倒なことになるぜ」

と、そう言ったタウラスも急にくしゃみをする。
怪訝に思いつつ、ロナルドは「どうしたんだよ、2人とも」とそちらを振り返った。

「いや、なんだか今ものすご~く嫌な予感が…。それも、姉貴絡みっぽい」

「まさか、南バレンヌで何かあったのかな?」

ピーターは心配そうに言うが、タウラスは「まさか」と首を横に振る。

「これは、『姉貴のせいで俺が酷い目に遭う』っていう嫌な予感だっての。大方、3人でオレたちについて勝手な噂話でもしてんじゃね?」

「ならいいのだけど…タウラスの第六感は、まるでルビーさんレーダーだね。なんでもすぐにキャッチしてしまうんだから」

「いんや、そんな大仰なもんじゃねえよ。ある種の生存本能というか、なんというか…」

カップにお茶を注ぎ直しつつ、そんなことを言うタウラスに、ロナルドは「生存本能とは、大きく出たな」と笑う。

「冗談じぇねえっての。姉貴のあれとかこれとかに巻き込まれる前に、自分のことに手をつけとかないと、後々とんでもなく面倒なことになるしな。
気が付いたら、何かが察知するようになってたんだ」

「でも、分からなくもないかな、その感覚。
僕も、時々アガタの考えてることが分かることがあるよ。双子特有のシンパシーみたいなものだって、親戚には言われたけど…。
僕がネラック、アガタがフォーファーで離れて暮らしてた頃、なんだか妙に気分が悪くて一日部屋で寝込んでたことがあって。後で聞いたら、全く同じ日にアガタが風邪で熱を出してたんだ。
僕が訓練で足首をひねった時には、アガタは僕が杖を突いて歩ってる姿を、夢に見たっていうし。だから今のも、その感覚がタウラスの生存本能と同じ現象を起こしたのかも…」

なんだか大仰な話になってきて、ロナルドにはさっぱり分からない。しかし、2人はそれで納得しているようだ。

「(なんか、もはや"弟"ってのが仕事になってきてるよな…2人とも)」

当たり前だが、ロナルドは兄弟のことでそんな感覚に陥ったことは一度もない。

それ特有の憂鬱もないが、それほど確かな絆があるわけでもない…ロナルドは、ほんの少し羨ましくなったが、その何倍も哀れみを感じた。


おしまい

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