弟ぶるーす
「結局のところ、いずれ弟には肉体的には抜かれてしまうのですもの。せめて、精神的には下にいてくれないと、姉としては落ち着かないのですわ。
見下ろされるのは我慢するから、その分仕事をしなさい、と」
「…あたしはそこまで考えてはなかったけど、確かにそうなのかも。あたしが仕事してて、ピーターが暇だったりしたら、とっても頭にくるだろうし」
「とりあえず、詰まるところ『弟のくせに生意気だ』、と」
メディアの言葉に、ルビーはほんの少し言葉に詰まってから「そう言うと、世間の弟さんに失礼かもしれませんわね」と答える。
「別に、弟は必ず姉より下にいなければいけない、とは思ってはいませんのよ。わたくしの場合は、単純に『タウラスが自分より上にいるなんて』という思考ですもの」
「そうそう。あたしも、『ピーターのくせに生意気』って思うだけで、弟だからどうこうでもないのよね。大体、あたしたち双子だし」
とはいえ、世間的にはこういう思考の姉はけっこう居そうな気がする…メディアは、そう思ったが口にはしなかった。
「別に、感謝していないわけではないのですよ。なんだかんだ言って、わたくしが忙しい時は自発的に仕事を引き受けてくれることもありますし。それなりにありがたいとは思っていますわ」
「あたしだって、無理矢理副帝にしちゃったけど、ピーターが居てくれるから皇帝としてやっていけてるって自覚はあるわ。一応、感謝はしてるのよ。口にしないだけで」
当人たちは涼しい顔でそんなことを言うが、メディアは苦笑するしかなかった。
「たまには、その感謝を口にしてやったら?口で言うのが癪なら、遠征土産でも買って帰るとかさ」
「ピーターくんはそれで良いかもしまれませんが…かわいげのないタウラスのこと、お土産なんて高尚なものを持ち帰った日には、『姉貴が土産を持ってくるなんて、明日は雪に違いない』とか言い出しますわ」
「良いじゃない、言わせておけば。きっとタウラスのことだから、何だかんだ言って受け取るには受け取るでしょ」
皇帝にまでそう言われて、ルビーは困ったような笑顔で「それもそうですわね」と答えた。
「とにかく、日頃のアバロンでの雑務は忘れて、今日は楽しく飲みましょう。
わたくしたちはゆっくり、羽を伸ばして帰った方が、面倒ごとを引き受けてくれた弟たちも報われるというものですわ」
「そうよね。労をねぎらうのは帰ってからで充分だわ。マスター、ボトルもう1本!!」
見た目にそぐわず酒豪のアガタは、手を振り上げ朗々と宣言する。
それをニコニコと見つめるルビーの反対側で、メディアは苦笑しつつ小さくため息を吐いた。
「(まっ、あいつらなら何とかなってんでしょ…伊達にこき使われてないんだし)」
今頃、こんな姉たちのうわさ話など知りもせず、黙々と書類を捌いているのかもしれない。そう思うと、メディアはほんの少し哀れになったが、その何倍も面白さを感じた。