弟ぶるーす
「というわけで、ルドン宝石鉱山視察が無事に終わったことを祝って、かんぱーい!」
『乾杯!!』
ティファールに1軒しかない酒場の一角。
鉱夫たちのどんちゃん騒ぎに混ざって、3人の美女がテーブルを囲んでいた。
普段なら、滅多に現れない美人を視界に入れれば、鉱夫たちがこぞって言い寄りに来るところだが…いかんせん、事情が分かっているだけに、今日は温和しい。
彼女たちは、若きバレンヌ皇帝アガタと、その側近である近衛兵メディア、そしてバレンヌが誇る精鋭部隊・宮廷魔術士のリーダーであるルビー。
今回は、アガタが領土視察ということで、南バレンヌ地方を視察。
その後、こうしてルドンまで足を伸ばし、今日は帝国の貴重な資金源であるルドン宝石鉱山を見てきたところだ。
ちなみに、この宝石鉱山は第4代皇帝フリッツの時代に解放され、以来このティファールの町は鉱夫たちの拠点として発展してきた。
アバロンの役人が交代で駐在し、鉱山の状態を常に確認してはいるのだが、やはり皇帝自ら足を運んだとなると、労働者たちの気合いの入りようも違うというものだ。
無事に鉱山奥地まで確認し、お土産に掘ったばかりの原石もちょこっと頂いたところで、町に戻ってきたのが先ほど。
そして、これで今回の旅の目的もすべて終えたこととなり、無事に全行程を終えた記念にちょっとした打ち上げと相成ったところである。
「それにしても、今回はあっさり終わったわね。アバロンを出てきたのが、ほんの5日前。あとはもう帰るだけだわ」
店主が振る舞ってくれて、とっておきの葡萄酒を口に含み、皇帝アガタは上機嫌だった。
しかし、一瞬後に「アバロンは、大丈夫…よね?」と眉を寄せる。
それを、メディアは「大丈夫に決まってんでしょ」と豪快に笑い飛ばす。
「アタシたち精鋭部隊だけで来て、他の連中は残ってんだから。国政はピーターが居ればなんとでもなるし、術研はタウラスが居るし、雑用にロンも置いてきたんだし」
ルビーに「ね?」と念押しをするが、当のルビーは「あら、ロナルド君に弟の雑用をさせてしまっては、申し訳ないでしょう」と苦笑する。
「術研の書類くらい、タウラスひとりで何とでもなりますわ。頼りない弟ですけれど、ああ見えて事務仕事は得意ですもの。あのくらいこなせなくて、宮廷魔術士が務まるものですか」
優雅にグラスに指をかけるその仕草は、若干粗暴な感じのするタウラスと比べると、信じられないくらい優雅だ。
もっとも、言っている内容は弟からしてみれば「鬼」なのだろうが。
「いっつも思うけど…ルビーねえさん、タウラスには容赦ないねぇ」
メディアはそう言うが、ルビーは「あら、そう思われます?」と笑った。
「姉弟ですもの。これでも、それなりに信頼してますのよ。ちょっと仕事を多めに預けたところで、へこたれるような弟ではないと」
「いやまぁ、信頼ってのはわかるけど…そういうもんかねぇ」
生憎、兄弟姉妹のいないメディアにはよくわからない。
もちろん、ロナルドやピーターのことは弟のように思っているが、それもあくまで「弟分」であって、実際の姉弟とは違うということは自覚している。
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