姉貴えれじぃ
しかしピーターは、お茶菓子をつまみながら「でも、分かるよ」と苦笑した。
「アガタも割とそうだよ。僕を副帝に任命したのもそうだし、気が付くと勝手に手を出してるというか。絶対に自分ひとりじゃ追いつかないのにね」
一応、「ありがとう」くらいのことは言ってくれるが、すでにピーターが手を貸すことが前提で、話が勝手に進んでいる。
もちろん、ピーターも手を出すことは了承しているが、それにしても仕事量というものを考えて欲しい。
「他の人に頼もうにも、アガタってこういうことを、他人にやらせるの嫌がるし。
でも、仕事のことはともかく、私生活なんかダラダラだよ。
ちょっと疲れてくると、何もしない。散らかした本とか、片づけるように言っても『後でやるわ』とだけ言ってそのまま放置。
結局、僕が気になって、つい片づけちゃうんだよね…。アガタの『後で』ほど当てにならないものはないよ」
皇帝という立場ではあるが、アガタは簡単に他人を信用しない。本当に大切なものは、信頼している人間にしか触れさせない。
故に、最も身近な存在であるピーターに回ってくるのだ。
しかし、ピーターも言うとおり、仕事はともかく私生活のことは、どうしようもない。
「使用人がいて傅かれる立場とはいえ、私室に人を入れることすらためらう癖に、掃除もしない…これって、つまり僕にやれってことだよね」
だんだん暗くなってきた空気に、沈黙が流れる。
ハッとして、ロナルドは「いや、別に姉弟仲良いならいいじゃん!」と明るい声を上げた。無理矢理。
「ほら、オレのところなんか離れて暮らしてるから、兄貴の結婚式とか、呼ばれることすらなかったりとか…弟以外の兄弟は、殆ど音信不通だし?
何の遠慮もなく物が言える姉弟が、近くにいるっていうのは、幸いなことだろ!…たぶん」
一生懸命言葉を探しながら、ロナルドも心の中で悟った。
同じ女性でも、他人と身内ではまるで別物なのだということを。
そして、数秒後に気づく。
「(そう言えば、女子部との飲み会とかにあんまり出てこない連中って、みんなお姉さんがいるとか言ってたような…?)」
自分は男ばかりの兄弟で、果たして幸せだったのか不幸だったのか。
そんなことは、誰にも分からない。