姉貴えれじぃ



「すまない、こんなことに付き合わせてしまって…」

「気にすんなって。皇帝の世話を焼くのが、オレたち直属部隊の仕事だ」

「そうそう。誰も迷惑だなんて思ってないって」

運んできたお茶を手に、一時仕事を中断する。
2人の言葉に「ありがとう」と微笑んだピーターは、ゆっくりとお茶をすすった。

その温かさが、身体に染み渡って心地良い。

「それに、さりげなく術研関係の書類も混ぜちまったしな。姉貴が放り投げた分」

お茶菓子を囓りつつ、タウラスはため息を吐く。

「それこそ、問題ないよ。どうせ、僕がアガタに回さなきゃいけない書類なんだから、一度に見ておいた方が効率も良いし」

「そりゃそうだけどよ…問題は、こうやってオレに面倒な仕事押しつけて、悠々と南バレンヌへ出て行った姉貴の方だっての」

タウラスの姉・ルビーは若くして術士長、そして術研究所長を務めている。
元はといえば、タウラスも姉の代理という形で、直属部隊に所属しているのだ。

才色兼備の優秀な姉は、術士としての腕が一流なら、人使いは超一流。
今回アガタの行幸について行ったのも、面倒な術研の事務仕事を放り出すためなのが見え見えだ。

「あの鬼姉貴、これで土産のひとつも買ってこねえんだから、いい神経してるぜ…」

「文句言い過ぎだろ、タウラス。あんなに美人で頭脳明晰なお姉さんがいて、そんなこと言ったら男所帯の歩兵団に殺されるぞ」

そう苦笑するのはロナルドだが、タウラスは「とんでもない」と首を振った。

「ロン、お前んとこの兄弟構成ってどんなだ?」

「えっ?別に普通だけど…男四人兄弟の三男坊ってやつ。つまり兄貴が2人と弟が1人」

ちなみに彼の実家は、ソーモンで造船所を営んでいる。
両親も兄弟もアバロンにはおらず、もちろん宮仕えもしていない。

そんなどこにでも居るような一般家庭だが、それを聞いたタウラスは「そりゃ、分かってねえな」と大げさにため息を吐いてみせた。
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