ある皇帝の叙情詩


アメジストがバレンヌ皇帝に選ばれたのは、ほんの半年ほど前のことである。
先帝の突然の逝去により、伝承法は無作為に、次の皇帝をアメジストに決め、その力を託した。

他に相応しい人などいくらでもいる…他ならぬアメジスト本人がそう思っていたが、一度継承してしまった力を手放すことはできない。
本人がこれといった覚悟もできないうちに即位し、今まで着たこともないようなドレス姿で民衆の前に立ち、人が書いた即位宣言を読み上げた。

一部の人間は、初の女帝誕生を喜んだ。
しかし、初代レオン、二代目ジェラールの後は軍人出身者が続き、平和を保っていたことから、魔術士出身の皇帝の力量を疑問視する声もあった。

継承法による皇位継承が行われるようになってから、「王家」という概念が薄れ、かつてほど貴族が権力を持つこともなくなった。
それでも、そこに派閥は残されている。

アメジストは高名なフリーメイジの孫ではあったが、一般庶民の家庭で育った人間であり、血統の上では旧王族とは何の関係もない。
しかも、本人は真面目だが大人しく、自ら強く物を言うこともない。趣味は読書と写本、魔術士時代には、図書館に引きこもって一歩も外へ出ない日さえあった。

そんなアメジストが「図書館女王」とあだ名されたのは、彼女が見習い魔術士だった頃のこと。それが今は、陰口として囁かれている。
軍の一部には、親友のアグネスが目を光らせていることから、それほど大っぴらに悪口を言う人間はいないが、気にならないといえば嘘になる。

「気にすることはない」とアグネスは言うが、アメジストは自分の無力さに落ち込むばかりであった。

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