ある皇帝の叙情詩
「それが…陛下の、御覚悟なのですね?」
「はい」
頭目ファルコンは、ようやく顔を上げ、側にいたクロウの顔を見た。
「…クロウ、約束しなさい。たとえ組織を裏切ることになっても、陛下を裏切るようなことはしないと」
「頭目?!」
「陛下、試すようなことを申し上げましたこと、どうかお許し下さい。
我々シティシーフには、確かに組織に対する絆があります。しかしそれは、冷たいものではありません。共にここで生きていく者同士の、人間としてのつながりに他なりません。
陛下が、あくまで皇帝として、クロウを兵士として使うのであれば、自分はギルド頭目として、それを許しはしません。
しかし、こうして陛下の人間としてのお言葉、皇帝としての覚悟を伺った以上、安心して部下を…家族を任せられます。
万が一、我々ギルドが陛下と道を違えることとなっても、クロウは陛下に付き従わせます。至らない"弟"ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げる。
あの、張りつめたような空気は、すでに消えていた。
周りを見回せば、ギルドの人間は一様に穏やかな表情をしている。
アメジストは、自分の言いたいことが伝わって、受け入れられたのだと理解するまでに、ほんの数秒かけた。
「頭目…いや、ファルコン兄、オレ約束する。
何があったって、メッサのこと助ける。皇帝陛下のこと、裏切ったりしない。もちろん、ギルドのみんなも。
それで、いいんだろ?」
純粋な目で訴えるクロウに、ファルコンは黙って頷いた。そして、わしゃわしゃと髪をなでる。
それを見て、アメジストは思った。
クロウの言うとおり、この組織は暖かい、と。
「…ファルコン殿、大切な弟君は、いつか必ず、皆様の元へ笑顔で帰省させます。そして、皇帝として改めて、シティシーフギルドとの同盟を望みます」
「もったいないお言葉。我々シティシーフ一同、アメジスト陛下に心よりの忠誠を誓いましょう」
組織中の人間が、一斉に膝をつく。アメジストは、一言「ありがとう」と告げた。
素直に、嬉しかった。
自分の言葉を受け入れてくれた人々に、精一杯のことを返していこうと思えた。
拙くても、情けなくても良い。自分が皇帝として、精一杯のことができれば。
そして、それが1人でも多くの人を幸せにできれば。
―長い長い時間を、皇帝として生き、大きな幸せを国民に残していったアメジストの人生が、ここでもう一度、スタートした。