ある皇帝の叙情詩


「うわっ、綺麗な夕焼けだ…明日も、天気になるな」

クロウが、遠くを眺めながら言った。
その素直な感想に、アメジストも「そうね」と微笑む。

夕焼けが見えれば、明日は晴れ…そんな感覚、忘れていた気がする。
空を見て、美しいと思う感性すら、どこかに置き忘れてきたのだろうか。

上を見ることを忘れて、ずっと下を向いていたのかもしれない…でも、今日からは少しでも、変えていこう。

もう、「私なんか」というのは、おしまいにして。

そんな、すがすがしい気持ちだった。

「…どうかした?」

「ううん、なんでもない。ありがとう、クロウ」

前を向かせてくれたことに。感動を取り戻してくれたことに対するお礼。
クロウは「気にしないでよ、オレが心配なだけだからさ」と笑う。

送ってくれることに対してだと思われたようだが、それでも良い。
アメジストは、心強い友達ができたことが、嬉しかったのだから。

「あっ、アメジスト!」

遠くから突然、声をかけられる。
ふとそちらを向けば、親友のアグネスがこちらに向かって手を振っていた。

「えっ、アギィ?ルイと一緒に呑みに行ったんじゃなかったの?」

「それよ、ちょっと聞いてよ!いつもの店が、重装歩兵の若い連中に占領されてんのよ。
あたしは、隅っこで温和しく呑んでようと思ったのに、ルイのやつ一々ケンカ吹っ掛けるもんだから、もうやってらんなくて。
まったく、これかだから血の気の多い男は…」

「えっと、それは災難だったわね…」

血の気が多いのはアグネスも一緒だろうと思うが、あえて口にしなかった。
そこへクロウが、遠慮がちに割り込んでくる。

「こちらのお姉さん、メッサの友達?」

「あっ、えぇ…私の親友のアグネス。アギィ、彼はクロウ。さっき街中で、私を助けてくれたの」

「初めまして」と手を差し出す彼に、アグネスは笑顔で「あら、こちらこそ」と握手をした。

「それにしても、うちの女王様、一体なにをしでかしたの?」

あきれたようにアグネスは言うが、アメジストは慌てて「ちょっとアギィ」と小声で抗議した。
クロウは、その女王様という言葉も、ただのジョークと受け取ってくれたようで「別に、ちょっと酔っぱらいに絡まれてただけだって。彼女は悪くないよ」と肩をすくめる。
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