翠玉の屈折角
…で、ふと気づいた。
「ねぇライ、あなた今日、術研へ行くって言ってたわよね?」
「えぇ。少し、片付けたいものがあるので」
「で、あたしがここであなたの首に色々付けたとして…それについて誰かに訊かれたら、なんて答えるつもり?」
「それはもちろん、素直に答えますよ。『シャーリーに付けられた』と」
…やっぱり。
「そんな恥ずかしいこと、世間に知らしめるつもり!?」
「知らしめるも何も、我々の関係はみんな知ってると思いますけどね。
別に、おかしなことではないでしょう?」
あのね、別に付くとかつかないとか、そういうことをおかしいって言ってんじゃないの。
それを堂々と晒して、開き直るのがおかしいって言ってんのよ。
…って言おうと思ったけど、なんだかどうでも良くなった。
「ライ、今日仕事終わるの、何時?」
「仕事というか、少し片付けに行くだけですから…昼過ぎには終わると思いますが」
「わかったわ。あたしは、先にメアリーを迎えに行って、ゆっくり2人でランチしてるから、後で合流しなさい。
その後、買い物に行く約束になってるから、そこで新しいスカーフでも買ってくれるなら、許してあげるわ」
「…なんだか、ただの荷物持ちにさせられてる気がしますが、気のせいでしょうか?」
「気のせいよ」
無理やりそう言い切って、実際そんなわけはないんだけど、この男を丸め込んだ気になってみた。
ついでに、服を着れば絶対に見えない肩口に、ほんの少しだけ痕をつける。
「…多少、チクリとしますね」
「納得したなら、着替えてきて。さっさと朝御飯食べて出かけるわよ」
せかせかと急ぐあたしに、不思議そうな顔をしながら、彼は部屋を出て行った。
仕方ないじゃない。
あたしは今から、もらったは良いものの、まともに合わせたことなんかないスカーフで、今日のコーディネートを考えなきゃならないんだから!!
…よく考えたら、これでまたスカーフなんか買ったら、それこそ無遠慮に、色んなところに痕をつけられるだけかもしれない。
それに気づいたのは、一週間後、またなんとも言い難い場所にキスマークを残されてからだった。
《今度こそEND》
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