翠玉の屈折角
***オマケ***
…どうしよう。あたし、これより幅の広いチョーカーとか、持ってないのに。
あたしが姿見の前で四苦八苦していると、“元凶”が通りかかった。
「おはようございます。
どうかしましたか?爽やかな朝だと言うのに、浮かない顔で」
「よくもまぁ、そんな口がきけるわね。
誰のせいだと思ってんのよ!!」
あぁ、もう!!なによ、人が出かける服装に悩んでるってのに、この男はまだガウンとか着てるし!!
別にあたしだって、困ってるだけで、急いでるわけじゃない。
実のところ、まだ起きて1時間も経ってないし、朝食の用意すらしてない。
普段なら、メアリーとの約束(ソーモンの実家から帰って来るのを迎えに行って、そのままランチとショッピングに繰り出す予定)まで余裕はあるし、あたしだってまだのんびりしてるだろう。
でも、顔を洗って鏡を覗き込んだ時に、気づいてしまった。
明らかに、普段の服装では誤魔化せない位置に、昨夜の形跡があることに。
「ちょっとこれ、どうしてくれるのよ!?」
あたしが問題の箇所を指差すと、彼はしばらく眺めて、やっと意図していることがわかったらしく、「あぁ、なるほど」と頷いた。
説明するなら、鎖骨の少し上…首の付け根としか言いようのない場所に、思いっきり吸い付かれた痕。
面積的には小さいけど、かなり変色してる。誰かに見られれば、気付かれるだろう。
「なるほど、じゃないわよ、もう!!
どう頑張ったって、隠しようがないじゃない」
手持ちのチョーカー類は全部試した。
でも本来、チョーカーって首につけるもので、首の付け根を覆うものじゃない。
なんともまぁ、微妙な位置すぎて…無理やり引きずりおろして隠しても、首を動かせばふとした拍子にずれる。当たり前だけど。
「別に、気になる物でもないと思いますがね…。症状的には、ぶつけて内出血をおこしてるのと変わりませんよ?」
「こんな変な場所を、何にどうやってぶつけるのよ!明らかに人為的に付けられたって、バレバレじゃない!!」
っていうか、なんでこんな付けにくい位置に、キスマークなんか付けたのよ。
いっそ、首かデコルテなら、まだ隠しようがあったのに。
…これは、もしかして。
「わざとでしょ」
「なにがです?」
「こんな中途半端な位置に、しるし付けたの」
「…まぁ、痕が付くとわかっていてやったという意味なら、その通りですね」
「というか、わざと隠しにくい場所を狙ったわね?あたしが困る顔が見たくて」
「それは、まぁ…御想像にお任せします」
やっぱり。この確信犯め。