翠玉の屈折角
ほんの数秒の間、息ができなかっただけなのに…その間に、言いたかった言葉が全てどこかへ消えてしまった。
恨みがましく睨んでみても、きっとこれが彼にとっては“可愛い”のだ。
案の定、ここまでいくと嫌味すら感じないレベルの、清々しい笑顔だった。
…なんて男なのよ。まったく。
でも、次の瞬間、その笑顔に少しの苦味が混ざる。
「ただ正直なところ、自分でも少し怖いんです」
「怖い?」
「貴女に、溺れてしまいそうで。
キリがないんです。貴女は、いつもわたしを違う表情で魅了する。
いつまでも、こうしていたくなってしまう…結局、ただ貴女に縋り付いていたいのかもしれません」
そう、彼は眉根を寄せて…なんとも言い難い笑みを浮かべていた。
…それ、意識的にやってるなら、女を落とす天才だわ。
少なくとも、あたしはその表情に、心臓を掴まれた気がした。
おかしいわね。さっきから、なんか変態じみたことしか言われてないのに。
あたしが、その金糸のような髪に指を潜らせると、彼はそこで初めて「シャーリー?」とあたしの名前を呼んだ。