翠玉の屈折角
「…ヒドいわね、まったく」
つまらない独り言。
でも、なんとなく口に出してしまうと、そのままグイと抱き寄せられた。
「やだ、起きてたの?」
「いえ、眠ってましたよ。ただ、眠りが浅かったようで…夢うつつの内に、貴女の声がしたものですから」
ギュッと抱え込まれて、あたしから向こうの顔は見えない。
ってか、なんなのよこの余裕ぶり。
「…なんか、頭に来るわ」
「おやおや、眠れずにいるなら、子守歌でも歌ってあげましょうか?」
「そういう意味じゃないわよ!まったくもう…」
この男と居ると、どうにも調子が狂う。
そもそも、あたしは誰かの思いのままになるのが嫌い。
他人に操られるくらいなら、あたしが支配権を乗っ取ってやりたいくらい。(軍人として、それもどうかって話だけど。)
そのあたしが、こうもあっさり丸め込まれるなんて。
…なんか、悔しい。
「…身体、痛みますか?」
指先であたしの髪を梳きながら、唐突にそんなことを言う。
「どの口が言うのよ。痛めつけた自覚があるっていうの?!」
「いえ、ただ…なんだか、不機嫌そうですから」
不機嫌…あぁ、そうですか。そうですとも。
実際、多少節々が痛んだ。
でも、あたしの機嫌が悪いのは、そんな理由じゃない。
そんなこと、この男はお見通しなくせに、白々しくそういうことを言った。
「普通の女の子相手に、あんなことしたら…丸一日、ベッドから起きあがれなくなるわね」
「まぁ、そうでしょうね…。でも、貴女なら平気でしょう?」
「…あんた、あたしを女の子だと思ってないでしょ」
あたしの一言が、よほどおかしかったのか。
彼は、「思ってなかったら、こんなことはしませんよ」と声を上げて笑った。