翠玉の屈折角
一体、この細い身体のどこに、あんな力があるのだろう。
どちらかと言えば長身でも、ガタいの良い連中を見慣れてるあたしに言わせれば、モヤシ…とまでいかないけど、頼れるとは言い難い体躯。
本気で襲われたって、片腕で押し返せると思ってた。
それなのに。
軍人で、しかも人一倍柔軟なあたしの全身に、何とも言えない違和感が残っていた。
「まったく…あたしじゃなかったら、どっかの節や筋を違えてたわよ」
そう呟いて、眠っている彼の髪を撫でた。
綺麗な金髪…よく見ると、顔立ちも従弟に少し似ている。
あぁ、そう言えば…この人、貴族の御曹司だったわ。一応。
もっとも、良いとこの坊ちゃんが須くイケメンかって、そんなわけはないけど。
筋肉質ではないけど、無駄な肉も付いてない。
こういうの、「しなやか」って言うのかしら。
ようするに、世間的にはそれなりにモテる筈よね、きっと。
いや、実際人気はそれなりにある。
軽歩隊の後輩にだって、あたしたちがこんな関係になる前は、「今度紹介して下さいよ!」とせがまれた。
本人曰わく、「実家から金が入ってくるどころか、実家に仕送りしてるような男と知れれば、突然居なくなられても仕方ないですよ」とのことだけど。
いや、違う。それが別れた原因じゃない。
ギャップがありすぎるのよ。
普段と、眼鏡を外してからの。