翠玉の屈折角


一体、この細い身体のどこに、あんな力があるのだろう。

どちらかと言えば長身でも、ガタいの良い連中を見慣れてるあたしに言わせれば、モヤシ…とまでいかないけど、頼れるとは言い難い体躯。

本気で襲われたって、片腕で押し返せると思ってた。

それなのに。

軍人で、しかも人一倍柔軟なあたしの全身に、何とも言えない違和感が残っていた。


「まったく…あたしじゃなかったら、どっかの節や筋を違えてたわよ」


そう呟いて、眠っている彼の髪を撫でた。

綺麗な金髪…よく見ると、顔立ちも従弟に少し似ている。

あぁ、そう言えば…この人、貴族の御曹司だったわ。一応。

もっとも、良いとこの坊ちゃんが須くイケメンかって、そんなわけはないけど。


筋肉質ではないけど、無駄な肉も付いてない。
こういうの、「しなやか」って言うのかしら。

ようするに、世間的にはそれなりにモテる筈よね、きっと。

いや、実際人気はそれなりにある。
軽歩隊の後輩にだって、あたしたちがこんな関係になる前は、「今度紹介して下さいよ!」とせがまれた。

本人曰わく、「実家から金が入ってくるどころか、実家に仕送りしてるような男と知れれば、突然居なくなられても仕方ないですよ」とのことだけど。


いや、違う。それが別れた原因じゃない。


ギャップがありすぎるのよ。
普段と、眼鏡を外してからの。


2/9ページ
スキ