古びたオルガンの見る夢の
「こちらが、その講堂です」
正面玄関をくぐって、しばらく廊下を歩いた先。
大きな両開きのドアを、学長はぐいと押し開けた。
そこは、広い空間であった。
天井も高く、正面にはステージがあり、演説台、ピアノが置かれている。
ずらりと並べられた椅子と机……おそらく、100人以上の人間が入れるのだろう。
「すみません、ストーブに火を入れたばかりでして、まだ部屋が暖まっていないのですが……」
「構いません。それで、問題のオルガンは?」
「はい、そちらです」
学長が指さしたのは、ステージの右側……2台あるストーブの片方の近くに、それはあった。
木製で、大きさは普通の机ほど。美しい装飾に囲まれてはいるが、あまり存在感はなく、こぢんまりとしたものである。
「え、オルガンって、なんかもっとこう、壁に向かってドーンってなってるもんじゃないの?」
テオが素っ頓狂な声をあげるが、アデルは落ち着いて「大きい教会にあるようなのは、な」と、そこに歩み寄った。
「これはポジティブオルガン。普通のパイプオルガンは、建物に合わせて据え付けるが、これはパイプが全部中に入ってるから、移動させることができるんだ」
「へー、なるほど。じゃあ、外でも弾けるの?」
「理論上は。……まあ、基本的には繊細な楽器だから、やめておいた方がいいだろうな」
側面には、文字が刻まれている。それをそっとなぞり、アデルは「およそ50年前に寄贈されたもの、ですか」と呟いた。
「えぇ……。50年前、学園内で火事がありまして。その時に講堂が燃えてしまい、オルガンも消失してしまった為、卒業生の方々がお金を出し合い、寄贈して下さったと聞いております」
「では、それからずっと使われているんですか?」
「いえ。実は、オルガンを弾ける先生が、数年前に家庭の事情で学園を離れられて以来、演奏できる人間が居ないもので……。音楽が必要な時は、そちらのピアノを専ら使っています」
「なるほど。学内に演奏できる人間がいないのに、急にオルガンの音が聞こえた、と……。その時のことを、詳しくお聴かせいただけますか?」
「あ、はい……」
