古びたオルガンの見る夢の


 ※ ※ ※
 事の発端は前日。
 この学校――全寮制の名門女学校・イルムガルト女学院の学園長・トーアバルト伯爵から、研究所に調査依頼の手紙が届いた。
 『学内で誰も居ない筈の講堂から、使っていないオルガンの音と、女性の歌声が聞こえた。学内では幽霊の仕業だという噂で持ちきりで、学生も教職員も不安がっている。本当に幽霊の仕業なのか、調査してほしい』、とのことだ。
 王立精霊額研究所は、国内唯一の精霊学の専門機関であり、その所長であるアデルは、国でただ1人、精霊事件に対応できる学者だ。
 持ち込まれる案件が多すぎて、受けるか受けないかは数日寝かせるのがいつものことなのだが、トーアバルト伯爵はアデルの兄・フレムトモルゲン公爵の友人であり、アデルも全く知らないわけではない。
 それに、場所が女学校であることも気がかりだった。
「若い女性は、想像力が豊かです。それに、同世代の男性と比べて、潜在的に高い霊力を持ち合わせていることが多い。
 多くの人間が同じことを想像すれば、それは創造に繋がり、それに反応した精霊たちが、本当に幽霊を作り出してしまう可能性もあります。
 ……これは、急いだ方が良いと、判断しました」
「なるほど、そんなことがあり得るのですか……。本当に、わざわざありがとうございます」
 伯爵から学園を預けられているという、この白髪交じりの男性は、学長という立場にある。
 もちろん、学園長たる伯爵から、「『王立精霊学研究所』の所長に、事件の調査を依頼した」という連絡はされていた。
 しかし、その所長が20歳程度の若者であり、秘書はともかく、年端もいかぬ少年を連れてきたことには驚いたようだった。
 しかもその少年は、誰が見てもハッキリと分かる、銀色の瞳をしていた。
 自然精霊そのものを祖とする、“精霊の子”の証である。
 何か言いたそうなことを察して、アデルは先んじて、「秘書のグスタフと、助手のテオです」と言い切った。
 国内に他に存在しない、精霊学博士の言うことだ。
 調査前の決まり文句で、大抵の人はいつも、「精霊学者は、“銀眼”の助手を連れているものなのか」と納得するのである。
 学長も、「あぁ、そうでしたか」……と、若干の懸念を残した表情で、2人に頭を下げた。

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