古びたオルガンの見る夢の
テオの後ろから、遠慮がちに、髪の長い少女が姿を見せる。
うつむき、黙り込んでいるその姿に、「まさか?!」と声をあげたのは学長だった。
「彼女は、本当に真面目な生徒ですよ。そんな、幽霊騒ぎを起こすような、イタズラをするような子では……」
「――僕がパイプをチェックするために中を開けた時、パイプがゆがんでいるのはすぐ分かりました。そして、誰かがそれを直そうとしていた形跡があったんです。ゆがんでしまった部分を伸ばして、パイプの長さを整えようと奮闘した形跡が。
おそらく彼女は、誰もいない時間に1人で、音を出して確認しながら、狂ったパイプの音を元の音に近づけようとしていたんです。
その過程が、50年前に亡くなったマートル先生と繋がってエピソード化し、結果的に幽霊騒動になった。彼女はイタズラをしたわけでも、ましてや幽霊を騙ったわけでもない。ただ、オルガンを直そうとしただけなんですよ」
違いますか?と、アデルは彼女を真っ直ぐに見た。
ミアは、わずかな沈黙の後に、「すみません」と頭を下げる。
「おっしゃる通りです。数日前から、夕方の誰も居ない時間に、少しでもなんとか出来ないかと思って、パイプを直そうとしていて……。
3日前、急に人が来た気配がしたので、慌ててオルガンを元に戻して、ステージ脇のドアから、外へ出たんです。それが、幽霊ってことになってしまって……本当に、すみませんでした」
これでもか、というほどに頭を下げるミアに、学長は「いいから、顔を上げなさい」と肩を持ち上げた。
「ところで、兄貴はなんで、オルガンを修理したのがミアさんだって分かったの?」
「あぁ、それは……これ、お返しします。オルガンの中に落ちていました。校章の裏留めパーツですよね」
スッと差し出したのは、穴の空いた金属パーツ。ミアは恐る恐る手を伸ばし、手袋の上に置かれたそれを受け取った。
「貴女が昨日から髪型を変えていると聞いて、これが何か分かったんです。襟に校章が無いことを隠すために、髪を下ろしているのかもしれない、と思って。
それに、修理しようとしたのが先生ではなく生徒なら、合点がいきます。この学校では、掃除当番すら『ご奉仕』と呼んで、仕事をすることを『はしたない』としている。そんな中では、オルガンを直せるような、手に職を持っているとは言い出しづらい。
周囲に堂々と『直します』と言わずに、コソコソ作業をしていたなら、きっと生徒なのだろう、と。
オルガンの知識がある程度ある人なら、これだけストーブが近いところにあれば、音が狂っていることは想像できます。弾いて見ずとも。
掃除の間に気になってしまい、人が居ない時間に少しずつ直そうとしたものの、3日前、人が来て騒ぎになってしまった。慌てて講堂を出てから、校章の留め金を無くしていたことに気づいたけれど、幽霊騒動になってしまった以上、修理を続けることはできなかった。……そういうことではないか、と。僕は推理したまでです」
「……おっしゃる通り、です。私が勝手なことをしたばかりに、お騒がせして申し訳ありませんでした」
ミアはうつむいたまま、小さな声で語り始めた。
