「Glory」

ーーーードン、ドン、ドドドド・・・・



近衛軍楽隊の葬送の調べが響き、
沿道の両側で多くの人々が見守る中、

ウィーゼルや元部下が寄り添い、或いは無言で従う中、フェルナンド元帥の馬車は歩みを止めることなく進んでいく。


音もなく小雨が降り始める中、
葬列は厳粛さを漂わせつつ粛々と墓地に向かっていた。




「・・・・・・かあさま、あれはなに?」




「シッ・・・・・」




両手で抱える息子が無邪気に葬列を指差す中、母親は小声で息子を嗜める。

かくいう母親も喪服姿であり、それだけでも彼女が要塞“鷲の巣”ゆかりの人物であることは人目で分かる。

フェルナンドと共に要塞攻防戦を生き残っていたホーリーオーダーのマリアは、
沿道に並ぶ多くの喪服姿の男女に紛れる形ではあったが胸に抱く息子に声を掛ける。

あの攻防戦から帰還して結婚した運命の下、この幼子が腕の中にいるのも、ひとえにフェルナンドのお陰だという感謝の思いと共に。




「よく見ておきなさい。あの馬車にいらっしゃるのは、国を救った偉大な御方ですよ・・・・・」



やや涙ぐむマリアの言葉に幼い息子は声を上げることも瞬きすることもなく目を大きく見開き、ただ眼前を進む馬車とそこに横たわる棺桶をじっと見つめていた。


この50年後、
ポール・ベリサリウス両帝の右腕として国軍を率いる元帥ウィリアムにとって、これが全ての始まりだということを後世の歴史は知っているーーーー










“歴史”は繰り返し、そして”遺志“は受け継がれるーーーーーー






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歴代元帥の中で唯一、”皇祖“と位置付けられる元帥フェルナンドーーーー







彼が陣頭指揮した第2次“鷲の巣“攻防戦では、第1次を上回る規模でありながら、守備隊の過半を失う激戦の中でも皇帝本軍来援まで敵の襲来を要塞に釘付けにすることに成功しているーーーー



要塞赴任当時、随行した守備隊の編成は各軍から質の悪い兵士が集められた、いわいる”寄せ集め“という経緯もある中、
敵襲来時には1人の離脱者もなく全員が指揮官フェルナンドの元に結束しており、


戦闘終了直後の要塞の惨状と生き残った守備隊兵士達の毅然とした堂々たる態度は、
皇帝直属の精鋭軍たる近衛軍団をして、


『守備隊兵士こそ真の帝国最精鋭』


と言わしめたーーーー






帝政終了後創立の共和国士官学校では、
フェルナンド元帥の統帥、そして要塞守備隊の戦訓に関する教育は必須課目となっているーーーー






ーーーー 完 ーーーー


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