「Glory」
『本勅命を発するにあたり、それが故人の遺志であったとしても、この勅命を個人生前のうちに発せられなかったことは我が生涯最大の痛恨事であるーーーーー』
目を瞑るウィーゼルの脳裏に、勅使の代読する皇帝ポールの言葉とともにポール自身の苦悶に満ちた表情が浮かんでくる。
『故人とその遺族は、たとえ故人の意志がどうであれ謹んで勅命を受けよ。
これは天上の英霊とその遺族、そして生き残った守備隊兵士の総意でもあり、
本勅命なくして故人が望んだ要塞“鷲の巣”守備隊の名誉回復は完結しないということを心せよーーーー』
皇帝の私信を読み終えて懐に収めた勅使が傍らの近衛兵から勅命の巻物を受取り、
一瞬の間を置いて中身を広げた。
『元将軍にして無任所大臣たるフェルナンドを“帝国元帥”に任じる。』
勅命冒頭の文言に、ウィーゼルは息を呑み思わず目を見開く。
『また祖国に対する優れた功績と勇気に対しては“第1級戦勝勲章”を、
軍籍離脱後に戦死者とその遺族に尽くした功労に対しては“牡丹勲章”をもってそれぞれ称え、“元帥杖”とともにこれを授与する。
彼の贖罪は要塞“鷲の巣”の名誉回復を果たしたことにより成されたものだと信ずる。
元帥号追贈は、
生涯軍人として戦い続け、外敵から国土を防衛した勇将の功績を称えるものである』
「・・・・・・・・」
ここに皇帝の勅命が全て読み上げられた。
ウィーゼルはじめ見守る人々が沈黙する中、勅命を読み終えた勅使が巻物を元に戻すと
傍らの近衛兵を無言で促し、
片膝をつくウィーゼルに声をかける。
「どうぞお受けいただきたい。我々も陛下から勅命とこれらの品々を持ち帰ってはならぬと厳命されております」
顔を上げたウィーゼルの前に近衛兵が両手で奉じるクッションが差し出された。
覆っていた紫のスカーフが取り外され、
姿を現したのは
複数地域の戦域における戦闘での功績を表彰し赤に金色の星をかたどった“第1級戦勝勲章”、
民間人として国家に功労のあったものを表彰しピンクの牡丹をかたどった“牡丹勲章”、
そして帝国軍人の最高位である元帥が持つことを許され、生前ならば複数軍団をも統率でき、死後にあっては生前の功績を同等のものと見なすことのできる象徴でもある
“元帥杖”ーーーー