「Glory」
ーーー儀式が漸く終幕を迎え、皇帝や議長以下閣僚や軍重鎮が先に退出し、続いて参列者がそれぞれ腰を上げ始めた頃、
「フェルナンド様・・・・・・」
気付けば眼前に歩み寄っていたスネイル未亡人の姿に、フェルナンドとウィーゼルは同時に立ち上がっていた。
ウィーゼルにとって初めて間近で顔を合わせる父の親友の未亡人。
飛び抜けて美人、というわけではないが、初老の色を表情に現しつつ整った顔立ちと落ち着いた雰囲気をまとった婦人だった。
「この度は、亡き夫の為にお骨折りいただきありがとうございました」
「いえ、そんな・・・・私は大したことはしておりません。全ては皇帝陛下のご厚情によるものです」
静かに頭を下げる未亡人に対し、フェルナンドも内心慌てつつ答礼する。
ウィーゼルも父に続いて頭を下げた。
「亡き夫は貴方の様な親友を得て本当に幸せでした。・・・・・まさしくフェルナンド様こそ救国の英雄です。夫がこの場におればきっとそう言うでしょう」
「そんな・・・・・スネイル、いやスネイル元帥こそ真に救国の英雄です。
彼なくして、今の私はありません・・・・
ですが、そのお言葉で・・・・ここまで生き長らえた甲斐がありました」
未亡人の感謝の言葉に対し、フェルナンドの言葉はつまりどこか途切れ途切れに聞こえた。
それが何故なのか、ウィーゼルには父の顔を見ずとも分かっていた。
ーーー余談となるが、
下級貴族でもあったスネイルの家門は、従来ならばあり得る他家門への吸収や家門断続を免れ、皇帝の特旨もあり、遠縁の若者を養子に迎える形で存続する。
そして帝政末期から共和政移行期に多くの家門が消えていく中、英雄スネイルの名前とともに元帥輩出の家柄として現在に至っている。
ーーーー言葉少ない中でのやり取りを終え
立ち去っていく未亡人の背中を見つめながら、
ウィーゼルはここで父の目から今まで流れなかった涙が一筋音もなく頬を伝っていくのを見た。
「父上・・・・・・」
思わずハンカチを差し出す娘の手に触れた父の指先が微かに震えているのをウィーゼルは悟った。
「ウィーゼル・・・・・・」
「父上・・・・・・?」
「今日この時こそ、私の人生で最良の時となりそうだ・・・・・」
目を赤くして微笑む父の表情。
その表情の記憶はウィーゼルの脳裏に生涯刻み込まれることになる。
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