「Glory」
「・・・・ねえねえ父さん、あれは何なの」
見上げてくる息子の質問に、傍らに立つ父親は記憶の限り丁寧に説明してくれた。
整列しているのは皇帝直属の精鋭軍である近衛軍団で編成された儀仗大隊と軍楽隊であり、
現在行われているのは帝国軍人における最高位である“帝国元帥”任命における栄誉礼の最中であること。
“帝国元帥”は10代皇帝であるベア帝治世下、当時の摂政皇后ジャンヌや“大軍師”の異名を持つ国務会議議長シゲンが主導して制定した称号であり、時の皇帝が勅命をもって任命し“元帥杖”を下賜する。
軍人としての実績、能力、忠誠心を踏まえて選抜され方面軍規模の複数軍団を動かす事が可能である。
本人死後の場合でも、生前の功績により追贈される称号であり、制定から現在までに10数名の軍人が生前又は死後に任命されている。
見たところ隣接する屋敷が葬儀の様相であることから、今回は本人死後の追贈の様子。
また元帥任命時の栄誉礼では慣例として、近衛軍団から選抜された儀仗兵と軍楽隊は派遣されるとともに、
軍楽隊が特別に戦大鼓を打ち鳴らすのも元帥任命時のお馴染みの光景とのことだった。
父親の説明を聞いた少年はーーーやや難しい用語を含んでいたもののーーー大筋の内容は漠然とはいえ理解した、ような気がした。
寧ろ言葉よりも眼前の光景や演奏の曲調の方が少年には鮮烈なイメージを残したようだ。
「へー・・・・・・あの演奏を受けるって凄いことなんだね」
「・・・・まあ、そうだな。何せ軍人として今まで頑張って功績を上げてきたことを認めてもらった証なんだからな。
お前も来月から幼年学校に入学するんだから、将来はあれくらい偉くなってくれよ」
「うーん、どうかなあ・・・・・」
本気で悩み始めた息子の頭をがしがしと掴み大笑いする父親に促されて、少年は買い物袋を落とさないように気をつけながら家路につく。
少年の背後では近衛軍団による戦大鼓の勇ましい響きももうすぐ終わろうとしていた。
ーーーードン、ドン、ドン、ドドドド・・・
少年の名前はフェルナンドーーーー
彼にとって40年以上前、
少年時代の記憶の微かな断片であるーーーー
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