「Heros」

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「ーーーーーー・・・・・」



うっすらと瞼を開くと、
そこには見慣れすぎた自邸の寝室の天井の紋様があった。




「お目覚めですか?」




声のする方にやや顔を動かすと、そこにはしっかり者の愛娘の顔がある。

つとめて笑顔を浮かべているように見えるが、その顔立ちには疲れとやつれが浮かんでいた。


そして自分の頭の側にある花瓶や見舞いの品、そして水を湛えた洗面器。

傍らに座る娘の背後に立ちすすり泣く老いた召し使いや俯き加減の医者の姿を見て、

フェルナンドは漸く自分が死の床にあることを思い出したのだった――――









第2次“鷲の巣”要塞攻防戦から6年後ーーー






「夢を見ていたよ、ウィーゼル・・・・」



自分の頬を濡れたタオルで拭いてくれる娘に、フェルナンドは静かに語りかける。

既にベットに横たわる彼の身体には、上体を起き上がらせる力すら残っていなかった。




「夢、ですか・・・良い夢でしたか、その夢は」



押し寄せる感情を押し殺しつつも、やや語尾を振るわす娘の問いかけに、
フェルナンドはフッと軽く息を吐く。




「そうだな・・・良い夢だったよ。懐かしい顔にも会えた。我が人生の・・・回想といったところか・・・」




そこでフェルナンドは顔をやや動かし、
寝室の片隅に視線を走らせる。


そこには自分が軍人時代、長年にわたって身につけて命を預けてきた鎧兜・盾・槍が鈍く青い光を放ちつつ静かに鎮座していた。



「・・・いつぞや話したかな、お前には・・・私の幼き頃からの夢を・・・」



フェルナンドの視線の先にある鎧兜を振り返りながらウィーゼルはコクコクと首を縦にふった。



「覚えています、父上・・・・・“偉大なる英雄”になりたい、と」



今更ながらに娘から言葉として聞かされると恥ずかしいものだな、とフェルナンドは改めて自嘲する。




「バレンヌ帝国の歴史上その名を遺された方々のように、私も皆から尊敬される偉人になりたかった。


子供の頃からの夢を、ずっと心の奥底に秘めて生きてきた。つもりだった・・・・・・



だが私は・・・いつしか道を踏み外していたのだ。
外側だけの栄光を追い求めるあまり、
恩師を、親友を・・・いや、真の英雄達を、

裏切ってしまったのだ・・・・・」



懺悔とも取れる父の呟きを聞いて思わず目を背ける娘の姿に、

フェルナンドはゆっくりとベットの中から左手を伸ばし、娘の頬にそっと添えた。

無骨でゴツゴツした温かい大きな掌が、
ウィーゼルの柔らかい頬をすっぽりと包み込んでいた。



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