「Heros」



「この書を先生からいただいた時の先生の言葉を思い出していました。


『英雄になろうとするな。英雄とはなりたくてもなれるものではないぞ』

『彼等は別に自分から
“俺は英雄だ”などと言ったわけではない。

仲間を信じ、部下と苦楽を共にし、か弱い者を守ってきただけなのだ・・・・』

『だからフェルナンド、 スネイルとキグナスとの繋がりを忘れるな。

そして英雄という“虚名”に惑わされることなく、
ただひたすら任務を全うすることに力を尽くすのだ』



あの時、私はこれらの言葉を真に理解できていなかった。
それ故親友との繋がりを自ら断ち切り、英雄の“虚名”に踊らされてしまったのです。

今の私にこの本を持つ資格はありません・・・・」



僅かに顔を俯かせたフェルナンドの身体が小刻みに震えているのが分かる。

ライブラは無言のまま、フェルナンドと机の上の書物を見比べていったが、ややあって首を横に降った。




「わしはお前達の繋がりが断ち切られたとは思ってはおらん・・・・」



「先生・・・・・・・・」




「だが、それでもお前が繋がりが断ち切られたと思うならば、
繋がりを取り戻すことをこれからの生涯の責務とせよ」


ライブラは机の上の本を静かにフェルナンドの方に押しやった。



「スネイルやキグナスの生き様を後の世に伝え、世に埋もれさせないことだ。
そして彼等の名誉を回復させ、
彼等の分まで自分を滅し国に尽くすこと。

これがお前のこれから歩むべき道ではなかろうか」



恩師から示された自分の進むべき道を聞かされ、
フェルナンドは思わず目を見開いたまま、
目の前のライブラの顔を見つめていた。

先程フェルナンドの身体から漂っていた
“迷い”と“憔悴”はそこにはなかった。



「・・・英雄伝は暫くお前が持っておれ。

新たな“英雄”の名前が刻まれるその時までな。
これからもお前の人生を導いてくれる筈だ」




「はい・・・はい・・・」




思わず両手で“英雄伝”を握りしめながら、身体を震わせ嗚咽するフェルナンド。

普段の寡黙で峻厳な姿しか知らない彼の部下や娘すら見たことのない、

フェルナンドのもう1つの“素顔”がそこにあったーーーーー






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