「Heros」
ーーーー私とは違って下級貴族と平民の血をひくスネイルは一応肩書きだけは “貴族”という立ち位置にいたという
(本人はそういう扱いを相当嫌っていたとのことだったが)
勿論本人も大剣を扱わさせれば相当なもので、バレンヌ半島配置での軍務を通じて実績も積んでいた。
それが幸いしたのか、
門閥貴族に縁のある女性を紹介され妻に迎えたのだ。
彼が半島勤務や国軍上層部での勤務が多かったのも、妻の実家の意向も働いていたのであったろう。
だがスネイルはここで保守門閥に与するどころか、逆に彼等の“逆鱗に触れる”行動に移ったのである。
思想的にはライブラ先生に賛同する改革派に属し、
門閥貴族層の中にあっても声高に現状変革を声高に又は水面下で唱えていったのだ。
当時ライブラ先生は国務会議議長として引退寸前で、改革派勢力も排斥されようとしていた情勢下だった。
一応門閥層に属しながらもそれを否定しようとする“政治的軍人”スネイルも、
やがて排斥されることになる。
それは一見門閥の縁故による昇進だった。
そう、あの “数段上の階級特進と南方軍総司令就任”だった。
そして本営が置かれたのが要塞“鷲の巣”。
スネイル自身自分が左遷されることに気づいており、主だった親しい人に挨拶することなく、帝都を後にしている。
いや、南バレンヌ通過時に私のところに一切顔を出さなかったのも、
親しき我々が同類と見なされ後々害を受けることを避けるためだったのだ。
ーーーーかくしてスネイルは遥か南の国境で、そのまま七英雄ダンタークの襲来を迎えることになる。
門閥系の国務会議は半島防衛を最優先し、
スネイル率いる要塞“鷲の巣”には一切の援軍を送らないことを決定した。
この機に守備隊ごと
“邪魔者の排除”を図ったのである。
だが当時南バレンヌにいた私と違い、
帝都にいたキグナスはその“親友の危機”に気づいた。
一時期は酒に溺れて妻に逃げられながらも、
その時は幼い息子への育児にかかりきりだったキグナス。
青春時代、自分の人生を変えてくれた要塞と戦友の危急を救う為、
彼は、そう確かクラックスという名前の息子を恩師の孤児院に預け、そのまま南の戦場に馳せ参じ、
スネイル共々戦場の露と消えたのである。
これが帝都に来て、初めて私が知った
“背景”の全貌だったーーーーー