「Heros」
ーーーーあの頃の私はただ黙々と任務に邁進するという“現実”に対応しながらも、
スタートラインが同じ筈の幼年学校の同級生(中には貴族階級に属するものも多くいた)に追い抜かれていくことに、
心のどこかで焦りと不満を知らず知らずのうちに鬱積させていたのだと思う。
そして親友だった筈のスネイルにまで追い抜かれてしまったことで
これまでの自分の人生を全否定されてしまったように思えたのだろう。
しかもスネイルの“昇進”は
改革を進めるライブラ先生よりも、
それに対立する門閥への乗り換えにも見え、卑怯な裏切りにも見えたのだろう。
ーーーー既に50近くの壮年期に差し掛かっていた私には、
青年時代のような“偉大な英雄になる” といった熱い情熱は既に冷めたものになっていたことは否定できない。
だが目の前にある現実を突きつけられたことで、
いやが上にも“英雄”になれなかった自分の立場に怒りを覚えてしまったのだった。
ただ目先の昇進のみに捕らわれ、
その背後に隠されていた
“背景”すら目をやる余裕もなくーーーーー
ーーーー暴動鎮圧のような日頃の任務に加え、そのような心中での憤懣も加わり、私は鬱々たる日々を過ごしていた。
程なく南部方面軍司令官スネイルが任地に赴くため、彼の直属部隊が南バレンヌを通過していった。
そんな彼が本営を置いたのは、
ナゼール国境の要塞 “鷲の巣”ーーーーー
その響きは私の胸の中で、青春時代の様々な感情を一瞬なりとも甦らせた。
長い歳月を通じて南の国境を守るに値するまでに形づくられた要塞へ、かつての戦友が赴任する。
ある意味、“錦を飾る”ためにーーーー
ーーーーそんな想いも、スネイルが私に対する訪問・挨拶・通知もせずに、南バレンヌを通過してしまったことで、
次の瞬間には雲散霧消してしまっていた。
心のどこかで友情を信じていた自分の心を無視するような仕打ちに、
私は“歳月の無常”を思い知り、
心の中で決別を告げてしまっていた。
それは、スネイルやキグナスと過ごした時代そのものを切り捨てたに等しかったかもしれない。
繰り返して言おう。
隠された事情に全く想いをいたさなかった、愚かな行為だったのだーーーーー