「Heros」
その後愛妻はウィーゼルが9才の時に流行り病で他界。
以後フェルナンドは一粒種となった娘を男手1つで育て上げた。
周囲から再婚の話もなくはなかったが、
亡き妻の思い出が薄れることがなかった為に結局踏み切ることはできなかった。
娘の方も父親の育て方が良かったのか、
才色兼備の才媛に成長し、今では父親の個人秘書の仕事をテキパキと捌けるまでになっていたのだ。
(あいつもいずれ結婚し、私の元を離れていくのだな・・・・・)
それはいずれ訪れることであるにせよ、
フェルナンドの心には世の父親同様一抹の寂しさがよぎるのだった―――――
ーーーーフェルナンドの書斎
「スネイルが、南方軍総司令だと・・・・」
食事の後に書斎にこもり、整理されていた書類・手紙類に目を通していたフェルナンドは思わず絶句していた。
彼が机の上に広げているのは、
帝都アバロンから定期的に届けられる日報の内、
定期異動・昇進に関する発表が記されているものだった。
そこには世界各地に配置される高級軍人の名前がびっしりと記載されており、
その中に長年“現場回り”のフェルナンドの名前はない。
そこにあるのは、フェルナンドと同じスタートラインに立ち同じ苦楽の中にあった筈の友人の名前だった。
「まさか・・・妻の実家の力か?」
“鷲の巣”での冒険から帰還してから、
スネイルはフェルナンドとは違い主にバレンヌ半島勤務が多かった。
その為帝都アバロンへ出向く機会も多く、いきおい帝都での宴会や催し物にも顔を出す機会が多かった。
彼が後に妻となる女性と出逢ったのもそんな時であり、
その女性の出身はフェルナンドの妻とは違い門閥貴族の出身だったという。
フェルナンドにも当時結婚式への招待状が来たのだが、
当時遠隔地になるコムルーン島駐留部隊で勤務していたために出席を見送った経緯があった。
それから20年近くスネイルやキグナスとは定期的な手紙のやりとりしかしていなかったが、お互いの出世や昇進については深くまで詮索しあうことがなかった。
ただスネイルが昨今帝都アバロンの国軍上層部勤務というのは知っていたが、
まさか今の自分の階級よりも数段上であるナゼール・ルドン一帯を統括する軍司令官にまで追い抜かされようとは、
今の今まで想像すらできていなかったのだーーーーー
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