「Heros」

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ーーーーそれから30年後、



ーーーー南バレンヌ・ルドン高原の境界線






“ワアアア・・・・・”



今1つの小さな街が騒乱の渦の中にあった。

主要な街の公共施設には次々と火が放たれ、
あちこちで黒煙が上がっていた。

主要な街路や小さな路地に至るまで激しい乱闘が発生している。

しかもそれらを引き起こしているのはモンスターなどではない。
他ならぬ“人間”だった。


やがて北から帝国軍の旗をはためかせながら重装備の歩兵部隊が街の中心部に突入してくる。

荒れ狂っていた人間達は次々と制圧されていく。

蜘蛛の子を散らすようにして逃げる一団に対しては、事前に回り込んでいた別働隊の騎馬兵が剣をふるい、抗う暴徒をたちまちに血まみれの死体へと変えていった。

こうして小一時間もしないうちに街の喧騒は静まり、
兵士以外に動く人間の姿は確認できなくなっていた。



「申し上げます!!暴徒全ての制圧を完了!!現在街の住人を呼び戻しつつ、 死体の処理を開始致しました!!」



「・・・・分かった」



街を一望できる丘の上に陣をしき、
黒い馬上から伝令の報告を受けていた“少壮の武将”。
声の調子を変えることなく返答し、そのままじっと煙と死臭がくすぶる街を見つめていた。




(私は・・・・)



(私は、こんなことをするために軍人になったわけではない・・・・)



心の中で目の前の惨状と自分の今の姿を重ねつつ自嘲するこの人物こそ、

若き頃“英雄”になることを夢見ていた
フェルナンド、壮年の姿だったーーーーー






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――――私達が要塞“鷲の巣”の基礎を築いてから30年、

帝国内外の情勢も大きく変貌していた。


大規模な外征は行われない内政重視路線は変わらないが、
変化ない国体は停滞と腐敗を生み、
在野においても変化を嫌う風潮を生み出す。


官僚化が進む国務会議においても血統・世襲が優先され、安定を大義名分とした保守思考の門閥政治が横行する。


我らの恩師ライブラ先生は状況を変えるため、
改革派といえる人材を身分問わず抜擢していたが、
これが門閥勢力の反発を生み、“保革激突”の内争が水面下で進行する。


しかも人間以外の異種族に対し差別をなくし様々な権利を付与しようとする運動を近衛軍団が弾圧した事件も混乱に拍車をかけたのだった。



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