「Heros」

ーーーーーあの時の感動を口に出して表現することは、とてもではないが不可能だな。


言葉ではなく身体の奥底から何かが上へ上へと沸き上がってくる、そんな感覚だった。

口々に歓声を上げて跳び跳ね、仲間同士互いに抱き合い、歓喜の涙を流した。

見ればキグナスはナゼール盆地を見つめながら、笑いながら泣いていた。
そんなキグナスの肩を抱き抱えるようにしてスネイルも笑っていた。

大の男達が無精髭のまま、まるで子供のように泣き笑っている光景。




・・・私か?私は1人大きな声で天に向かって絶叫していたね。

腹の底にたまっていた
あらゆるものを全て吐き出しきるつもりで。





“オオオオオオオッッッッ!!!!!”

















ーーーーその時我々が立っていた場所が、
後の要塞“鷲の巣”の展望台になる。

我々はその位置に皇帝陛下から戴いた鷲の隊旗を高々と掲げたものだ。



そこを中心にする形で我々は周辺一帯の探索と宿営場所の設営を開始した。

要塞を作る基礎固めという任務がある以上、長丁場になることは避けられなかったから。

工事の測量と平行し、食料の確保や土着のサイゴ族との交流を図るためにナゼール盆地へ先遣隊も派遣された。


キグナスがサイゴ族の女の子をモンスターが蠢く洞窟から助け出し、
サイゴ族の若者エイリークとの友情を産んだのも、大体この頃のことだった。




以来我々は都合2年半、
ナゼールの地で生活することになる。

宿営施設が概成した時点で探検隊の半分が帰国の途についた。

皇帝陛下への報告と交代要員含む第2陣を呼んでくるためだ。


ちなみに、私もスネイルもキグナスも途中帰国はしていない。

2年半連続してナゼール盆地の探索や要塞工事、

はたまたサイゴ族との交流の方が正直充実した毎日だったからだ。


今にして思えば、
これまでの探検行とナゼールでの日々が、
土地と要塞への愛着を生み、
やがては我々3人の人生に大きな影響を与えることになろうとは、

その時の私にとって思いも及ばないことであったーーーー






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