「Heros」
ーーーーあの夜の恩師の言葉は、まさに私自身の生き方を否定しつつも変革してくれようとしたものだった風に感じられた。
もっともあの頃は、言葉の真意を半分しか理解していなかったように思える。
あの言葉を“身をもって”理解できたのは、遥か後年のことになるのだからーーーー
ーーーーかくて私達の人生をかけたナゼールへの探検行がこうして幕を開けた。
もっともあれは“探検行”などという“穏やかな”言葉で表現できるものではなかったことは間違いない。
寧ろ“決死行”と言った方が良いかも知れない。
整備された街道が続いていたのは無論帝国領のルドン高原までで、
そこから先は人が通るにはあまり険しく、
獣道に毛が生えたような程度のものが大半だった。
正直それでもましな方だった。
ひどいところでは道自体が存在しない為、
自分達で土を掘り岩を崩してながら、桟道を作りながらの連続だった。
工事の最中に谷間に落ちていく隊員を間近に見るのも1度や2度ではなかった。
野営についても十分な広さを確保できることは希で、大半は全員分散し岩場の陰で寝袋・毛布にくるまることが大半だった。
一応重装歩兵の私もスコップ・ツルハシで岩や土と格闘する。
時折襲ってくる山岳地帯のモンスターに対しては、
今度はスコップから槍に持ち代えて立ち向かう。
戦うという意味ではスネイルも、また武器は持たずとも術士としてのキグナスも同様だった。
ーーーー決死行開始から3ヵ月近く経過し、
山々には早くも寒気か訪れようとした。
食料や燃料も分担しての現地調達。
飢えと寒さに眠れない夜を何度経験したことか。
そんな中、我々の気持ちを奮い立たせてくれたのは、
ライブラ先生から送られた“英雄伝”だった。
見張りの時や眠れない時は3人で回し読み、
又は片方がもう片方に語り聞かせるようにした。
過去の英雄達の事積と
今の自分達を重ね合わせた。
今の自分達のやっていることは、やがて歴史上語り継がれていくであろう任務であると言い聞かせながら・・・・。