「Heros」
「・・・・フェルナンド、“英雄”になろうとするな。“英雄”とはなりたくてもなれるものではないぞ」
ここで一転、自分の心の中を見透かしてきたかのような恩師の一言に、
フェルナンドは思わず顔を上げ真っ直ぐライブラを見詰めた。
“英雄“を目指すのは自分にとっての生涯の夢。
恩師もそれを承知で、自分達への餞別に“英雄伝”を送ってくれたのではないのか―――――
そんな疑問がそのまま顔に浮かんだのだろう。
ライブラはフフッと微笑み、クルリとフェルナンドに背を向ける。
そのまま顔を上げて、天空の星々に目をやった。
「・・・・英雄伝に綴られている歴代の“英雄”達は、後世の人間が過去の偉人の業績を評価して分類しているだけのことだ。
それは第2代・ジェラール大帝の覇業を支えた“賢臣団”然り。
伝説的な大軍師と謳われた我が師シゲンも然り。
その他多くの政治家や将帥もまた然り。
無論キグナスの母親サファイアすら例外ではないのだよ・・・・」
今までの自分の価値観を否定されているかのような恩師の言葉に、フェルナンドの心中は複雑だった。
それに対する反論すら出来ないまま、ただ黙って恩師の背中を見つめている。
手にしている英雄伝に食い込む指に無意識にも力が加わっていた。
そんなフェルナンドの心中を知ってか知らずか、
ライブラは言葉を紡ぎ続ける。
「彼等は別に自分から『俺は英雄だ』などと言ったわけではない。
ただひたすら自分の職責に全力を尽くし、未開の大事業に挑み、外敵から国土を守った。
仲間を信じ、部下と苦楽を共にし、か弱い者を守ってきただけなのだ・・・・」
ここで初めてライブラは振り返ってまじまじとフェルナンドの顔を真っ直ぐに見据えた。
その瞳には先程まではなかった強い決意の光が宿っていた。
「・・・そういう意味では歴史書に語られぬ無名の軍人・兵士もある意味“英雄”なのだ。
彼等も国のため仲間のために戦ってきたことでは同じなのだから・・・・。
だからフェルナンド、
スネイルとキグナスとの繋がりを忘れるな。
そして英雄という“虚名”に惑わされることなく、
ただひたすら任務を全うすることに力を尽くすのだ。
あとは後世の歴史家に任せておけばよいのだから――――――・・・・」
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