「Heros」

「・・・・ところで、何かキグナスのことでさっき言いかけていたな。
あいつに何かあったのか?」


互いに酒が進みグラスの中の氷も大分溶けてしまった中、
スネイルの赤みがかった顔を覗き込むと、
一転してスネイルは目を反らし口も重くなった。


そんなスネイルを更に問い詰めると、彼は漸く語り始める。


幼年学校を卒業したキグナスは見習い術士として、術法研究所に配置となる。
しかし、ここで彼は能力の無さに苦悩することになる。

無論キグナスの能力は人並みの術士以上のものを持っていた。これからの練磨次第で伸びていくことが予想された。


問題は彼の“母親の威名”がそれを許さなかったのだ。


キグナスの母親サファイアは、
天才と言われた“銀月の大軍師”シゲンの長女で、幼少期から既に術士としての潜在能力の大きさを周囲に認めさせていた。


そしてキグナスとほぼ同じ年代には、
術法研究所の中で最大の能力を発揮し、
戦闘部隊を率いるまでの才媛ぶりを発揮。

優秀な術士に授けられる称号“黄金術士”も得ている。


フェルナンド達の恩師ライブラが同じく天才ぶりを見せつけており、

この2人を別称して当時“術士界の双璧”と呼んでいたくらいだ。


既にサファイアは引退・他界しており、
ライブラも政治家に転身していたが、
その伝説は未だ健在だった。



いきおいサファイアの5人の子供―――キグナスは末っ子―――は母親と比較されてしまう宿命を背負うことになる。


そして5人共に術士の道を歩むことになり、
その中でもキグナスは劣る存在だった(のように見えた)



周囲からの視線と陰口、
そして姿なき“母親の存在”に耐えきれなくなったキグナスは最近仕事にすら手をつけることなく、
酒浸りの生活に入っているという。



「無論キグナスは無能なんかじゃない。

しかし・・・あの“英雄伝”にまでのっている“術士界の双璧”が相手じゃあな・・・」



「そうか・・・・」



“英雄を目指す”自分と
“英雄の息子”である親友。


2つの境遇と将来を思い描いた時、
フェルナンドの中に閃くものがあった。

英雄となり又は英雄を超える為、
この際“前人未到の事業”に挑戦してみようとーーーーー






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