「Heros」
「・・・で、普段図書館に置いていない“英雄伝”が読みたくて、っと」
「「・・・・はい」」
「とりあえず授業で使っていた私のところならば間違いなくあるだろうと、
それでこっそり持ち出して読もうとしたわけか・・・」
「「・・・・はい」」
フゥーッと大きなため息をつくと、ライブラは自分の前で正座してべそをかくイタズラ3人組を眺めた。
ソファに座るライブラの傍らの小机には、
3人お目当ての分厚い英雄伝が置かれていた。
“英雄伝”ーーーー
遡ること100年前、
当時の国務会議議長で帝国大学創設にも力を入れていた軍師モウトクが、
7代皇帝アガタが進めていた国史編纂の一貫として編集を開始していた歴史書の1つ。
全般的な流れを現した“帝国史”と違い、
各分野で功績を残した“偉人伝”の中で、
国家存亡に多大な貢献・功績を残した人物を更に抜き出し詳細に記録したものである。
誰を偉人伝・英雄伝に記載するかは国務会議更には皇帝自ら決定するほどのものであり、
その英雄伝の内容を今度は一般向けにまとめられた形で、
教育用の教材や子供向けの絵本向けに落としこまれるわけであった。
その為身分問わず、
彼等のような年頃の少年達ならば、
英雄伝に名を連ねている人物の名前くらいは暗誦できるのだ。
「しかし貸して欲しいならば、そう言えば良かろうに。わざわざ忍び込む必要があるのか?」
「えっと・・・キグナスが『この前の補習の宿題もやってないのに、そんな英雄伝なんか貸してくれるわけない』って言ったから・・・・」
「ぼ、僕のせいなの?でも最初に忍び込むの言い出したのはフェルナンドだし、スネイルもそれに賛成するもんだから・・・・」
「お、俺のせいかよ!!」
目の前のライブラ置いといて言い合いを始めた3人に、
ライブラは眉間に指をあてながらもあきれてしまう。
「はいはい、分かった分かった。言い合うのはやめなさい。
まぁ、無断で部屋に忍び込んだことについての罰は放課後以降考えるとして・・・・」
「ば、罰あるんですか、先生?」
「当たり前だろう。でないと他の者に示しがつかんからな」
そう言いながらライブラは小机の上の英雄伝を手に取ると、3人の前に置いた。
6つの目が興味深げに本の表紙に釘付けになる。