最初の盗賊、最後の皇子。
身分ではなく、実力相応の地位を望んだリチャードは、首席らしく軽装歩兵小隊の現場指揮官に任命された。
もっとも、未だ大きな戦闘に駆り出されたことはないが。
「貴方がどれだけ軍で頑張ろうと、ジェラール陛下の嫡孫という事実は覆せないのですよ。
他に兄弟が居ればともかく、貴方は一人息子ですからね。放り出したところで、代わってくれる人間もいませんよ」
ライブラはそう言うが、リチャードはカラカラと笑った。
「ハハ、どうだか。
イアサント家の連中なら、喜んで皇位を掻っ払ってくれそうだけどな」
「掻っ払うって…もう少し、言い方というものがあるでしょうが」
ライブラは顔をしかめる。
リチャードの口が悪いのはいつものこと…いや、皇子扱いされるのが嫌で、わざと乱暴な言葉遣いをしていることは、ライブラもわかってはいるのだが。
ちなみに、リチャードの母・ローラの兄が、ライブラとメアリーの父親である。
ソーモンの地方貴族の、家を継ぐ必要もない次男坊のライブラは、術士になるためにアバロンへ上京してきた。
それを追って、妹のメアリーが上京し、猟兵として採用され、今は兄妹でアバロンで暮らしている。
親戚嫌いのリチャードが、まともに信用しているのは、母方の従兄妹であるこの兄妹くらいのものであった。
特に、父方…叔母である皇女リゼットの嫁ぎ先、名門・イアサント家のことは、毛嫌いしている。
リチャードが生まれていなければ、皇位継承権はあの家の従兄に渡ったことだろう。
しかし、母親の実家に後ろ盾がないとはいえ、リチャードは紛れもなく皇太子の嫡男。
当然、向こうからすれば面白くない。
「俺からすれば、皇位なんか譲ってやって構わないってのにな…。
どうせ、王家の血なんか俺の代で途切れる」
「いきなり独身宣言なんかして、どうするつもりですか、貴方は」
ライブラが冷静に切り返す。
リチャードは、「どうもしたくないだけさ」と、またも声を上げて笑った。
「俺のことはともかく。話を戻すぞ。
泥棒に入られた家に疚しいことがあるにしても、肝心の犯人を捕まえないことには、話が進まない。
次のターゲットを絞り出せたとしても、犯行現場を押さえるのは難しいだろうな」
「えぇ、まったく。
だとすれば、考えられる作戦は、そう多くありませんよ」