最初の盗賊、最後の皇子。
そこで皇帝ジェラールは、この一件をリチャードに任せたのだろう。
軽装歩兵団の若き将校にして、自身の嫡孫である彼と、彼が信頼する人間に。
「そういうわけだから、この件はくれぐれも他言無用で頼む。
以後、この4人だけでなんとか動いていくぞ」
「わかってるわ。
まったく、これじゃ話を聞いちゃった時点で、参戦すること必至じゃない。
ま、このあたしを選んだことについては、お目が高いと言っておくわ」
「バカ。お前のことだから、放っておいてもどこかから嗅ぎついて、絶対首突っ込んでくるのが目に見えてんだよ!!
後々そうなるくらいなら、最初から巻き込んだ方がまだマシだ」
「酷い言い種ね、人を暇人みたいに」
「実際暇だろうが!真っ当な人間が、昼間っから商店街うろついてバッグなんか漁ってるか!?」
「仕方ないじゃない。平和だから、訓練しかすることないんだもの。
それに、ショッピングは心の栄養よ。オアシスよ。
言うなれば、人生に必要なエネルギーだわ。ね、メアリー?」
「ふぇ!?えっと…要するに息抜きですよね!それはとっても必要だと思いますぅ」
「息抜きっぱなしもどうかと思うぞ。
…まったく、こんな奴が城内待機員だなんて、世も末だな」
頭が痛いとばかりに、リチャードは大袈裟な溜め息を吐いた。
因みに城内待機員とは、有事に備え、各軍の本部ではなく、皇帝の居城に待機している人員のことだ。
階級や年齢問わず、実力のある人間だけが城内入りを許され、その数は原則として各軍2人ずつ。
軽装歩兵団女子部の代表として、その任に当たっているのが、このシャーリーであった。
実際、身のこなしが軽やかで、柔軟且つ即応力もある彼女は、大抵の武器はそつなく操り、特に小剣にかけては右に出るものがいない、とまで言われている。
リチャードとは士官学校からの同期で、なんとなく続いている腐れ縁だった。
「とにかく、だ。
細かいところは、俺とライ兄で作戦を詰めておく。
明日の夜2300に、またここで落ち合おう。
…わかってるだろうが、余計なものは絶対に持って来るなよ。
あと、任務前は飲酒厳禁だからな」
「はいはい。まったく、あたしだって一応軍人なんだから、そこのところはちゃんと理解してるわよ。
…それじゃ、今日のところは解散ね。飲み直してから帰るわ」